世間は夏休みに突入した。
名前もその一員である。
だが名前は夏は特にやることもなく、バイトに励むくらいだった。
名前のバイト先は近くにあるファミレスだ。
少し高めのファミレスで、近くにもっと安いファミレスがあるせいか同級生がほとんど来ないのが良いところだ。
夏休みということで普段よりも少し客足が増え、名前は忙しそうに動き回っていた。
そこにまた来客の知らせが響く。

「いらっしゃいませー!何名様です...か......」
「1名で」

名前が入り口の方へ向かうとそこには鬼灯が立っていた。
名前は他の社員に聞こえないよう小声で話した。

「なんでここで働いてるって知ってるの!?」
「暇で散歩してる時ここに入っていく姿を見かけたことがあるので来てみました」
「来てみましたってねぇ......」
「おや?ここの店員は客を案内してくれないんですかねぇ?てんちょ...」
「しっ!ご、ご案内します!」

名前は仕返しに4人席に案内してやろうかと思ったが、時間帯のせいか生憎空いておらず、仕方なく2人席へ案内した。

「あと30分で終わりですよね?ショッピングモールに行きたいので連れてってください」
「なんでシフトまで知ってるんだよ」
「机の上に放置されていたので」
「はぁ...。お金は?渡した分まだ残ってる?」
「大丈夫です。あ、ホットコーヒーで」
「かしこまりましたっ」

名前はその後残業することなくきっちりシフト通り上がり、私服に着替えた後席でのんびりする鬼灯に声をかけた。

「いこ」
「はい」
「あれー?名前ちゃんが男の子連れてる!」

人に見られたくないため足早に帰ろうとした所、一番見つかりたくない人物に見つかってしまった。
人の恋話が大好きな社員のお姉さんである。

「げ...」
「げって何よ。ねーねー、彼氏?彼氏なの?」
「違いますよっ!友達です!」
「友達〜?ふぅ〜〜ん、そっかぁ〜〜」

先輩は何か含んだような言い方をして鬼灯をチラッと見た。

「本当ですよ。恋人ではありません」
「なんだぁーつまんないの。ま、デート楽しんできてねっ!」
「デートじゃな...!ちょっ...」

それだけ言い残して先輩はキッチンの方へと戻っていった。

「じゃあ、デート行きますか」
「乗らなくていいよ...」

二人はファミレスを出て、一駅隣にあるショッピングモールへ向かった。

「なんでショッピングモール行きたかったの?」
「行ったことなかったので見てみたかったんです」
「ああ...なるほど...」

初めは鬼灯がキョロキョロと辺りを見回していたが、気付けば名前が店を回って見るようになっていた。
鬼灯はすぐどこかへ行きそうになる名前の手を掴んだ。

「貴女ほんとすぐどこか行きますね」
「え〜ちょっと見てるだけだってぇ」

名前と鬼灯は手を繋いだままモール内を一通り見回った後、疲れたのでフードコートでひと休憩することにした。
二人で食事をしながら名前はこの後のことを考えた。

「あ、ねえ。せっかくモール来たんだし映画とか見ていかない?」
「映画ですか。興味はあります」
「見たい映画があるの!行こ!」

時刻はまだ昼過ぎだ。
家に帰らなければならない時間まではまだ余裕がある。
食事を終えた後3階にある映画館へ行き、見たかった映画のチケットを買った。
お腹がいっぱいだったためポップコーンは諦めて、飲み物を二人分買って席へと向かった。
鬼灯は薄暗い館内が珍しいのかまたキョロキョロとしている。
席に着くと鬼灯は画面に流れる宣伝や注意事項をじっと見ていた。
やがて映画が始まると、二人は画面に集中した。
映画の内容は、ある男の子と女の子の中身が入れ替わり、死んだはずだった過去の女の子を助けるために男の子が奔走する話だった。
鬼灯は名前と入れ替わったわけではないが、この不思議な境遇が似ていると思った。
もちろんこの映画はフィクションなのかもしれないが。

「(私は名前さんを助けるために...?)」

そんなことをふと浮かんではいいやこれは作り話だと否定し、しかし自分が今ここにいること自体おかしな話だとも思った。
確かに名前は守るべき存在かもしれない、と鬼灯は考えた。
突如現れて右も左も分からない鬼灯を匿ってくれて、衣食住まで提供してくれて、しかも名前の周りは名前を不幸にする環境ばかりだ。
学校も、家庭も。
鬼灯はチラと名前を見た。
感動しているのか涙を流している。
それを見た鬼灯はとくんと胸に甘いものが広がるのを感じた。

「......?」

薄暗くて良い雰囲気の中涙を見たせいだ、と浮かぶ思考を振り払った。


「いやぁーよかったねー!泣けた!」
「そうですね」
「そうですねって、鬼灯くんちゃんと見てた?」
「見てましたよ」

鬼灯は未だ涙を流しながらハンカチで目元を拭く名前の手を引き、エスカレーターを降りた。

「ご両親が帰って来る前に早く帰りましょう」
「うん、そうだね!」

二人はそのまま手を離すことなく家へと帰っていった。



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