ある暑い夏の日。

テレビCMを見ていた丁が、ここに行ってみたいと言い出した。
テレビに映っていたのは旅行代理店のCMで、海の景色だった。
景色からして沖縄だと分かったが、あいにく中学生である名前にそんな遠くへ行けるお金などない。
そこでここに行くのは無理だけど近くの海なら行ってみようと提案したのだ。
名前の家から電車で1時間と少しくらいの場所にある比較的有名な海だ。

電車に興奮する丁の手を引いて、名前はそこにやってきた。

「わぁー...!おおきいですね!」
「水着があれば入れたんだけどねぇ。足だけ入ってみる?」

名前は丁を浅瀬に連れて行き、自分も丁も靴を脱ぎ足だけ海に浸かった。
ザァ、と波が足元を擽る。
丁は楽しいのか目を輝かせて足を遊ばせている。

「転ばないようにね」
「大丈夫で...わっ!」

言ったそばから丁は足を縺れさせて転び、服はびしょ濡れになってしまった。
名前はくすくす笑いながらバッグからハンドタオルを取り出し、拭いてあげた。
近くにあった岩に腰掛けある程度拭き終わり、日差しが暑いので自然乾燥させることにした。

「...丁くんは、両親と一度も会ったことないの?」
「...ない、です。顔も知りません」
「そっか...」
「一度くらい会ってみたいものです」
「そうだよね」
「この世界に来て仲の良い家族をたくさん見かけました。両親がいるということがたまに羨ましくも思います」
「......親がいたからって、必ずしも幸せというわけではないよ」
「......、そう、ですね」

丁は先日の名前と父親のことを思い出して、また少し顔が熱くなった。

「大丈夫?顔赤いよ?日陰に行こっか」

名前は丁を日陰へ移動させ、飲み物を買ってくると言いどこかへ行ってしまった。

丁は先程の名前の言葉を頭の中で繰り返した。

親がいたからといって必ずしも幸せなわけではない。

自分がみなしごという点で物を見れば分かりかねる言葉だが、名前と父親の件を見ている限り確かに、と思ってしまうのだった。
どうすれば名前は幸せになれるのだろうかと子供ながらに考えたが、考えても考えても当然のように答えは出なかった。

「ただいま」
「ひっ」

ぴとりと丁の頬に冷たいペットボトルが当てられた。
またもくすくすと笑う名前を丁は軽く睨んだ。

「アイスもあったから買ってきちゃった」

そう言って丁にアイスをひとつ手渡した。

「食べるの初めてでしょ?」
「はい。いただきます」

一口食べると、丁はまたきらきらと目を輝かせ、夢中になって食べ始めた。

「丁くんは美味しいもの食べてる時とってもかわいいね」
「むっ...かわいくはないです...」
「こんなかわいい弟、ほしかったな」

名前はずっといたらいいのに、と心の中で思いながら、丁の頭を撫でた。

「私も、名前さんのようなお姉さんがほしかったです」
「嬉しい〜。向こうに帰ることがあってもお姉ちゃんのこと忘れないでね?」
「忘れませんよ」

二人はにこにこと会話をし、しばらく海や出店を堪能した後遅くならないうちに家へと帰った。



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