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世間では夏休みに突入した。
名前は部活をしておらず、学校に特に仲のいい友達がいるというわけでもないので、夏休みは特に暇だった。
頭が良く塾にも通っていないので、夏期講習に行くこともない。
一人であれば図書館や家で自習をするが、今家には丁がいるのでそこまで暇にはならないかもそれない、と名前は思った。
だがそんなある日、一大事が起きたのだった。
丁が、風邪をひいた。
「うぅ...頭が痛くてさむいです...」
「大丈夫...?」
丁は名前の布団に入れられ、熱を測られた。
「うーん...熱あるねぇ...食欲はある?」
「あまり...」
「でも食べないと薬飲めないしなぁ」
名前はお粥を作ることに決めた。
1階に降りて鍋にご飯を入れ、水を入れて火にかけた。
「(いつ風邪なんてもらってきたんだろう...?
実は私が風邪菌持ってて、抵抗力の弱い丁くんにうつったってパターン...?)」
ぐつぐつと沸騰し始めた鍋にだし粉末を少しと塩を少し入れた。
時々かき混ぜながら煮詰めていく。
「(うん、美味しそう)」
火を止めて小さい器にお粥を移し、お盆に乗せてスプーンを添えた。
冷蔵庫からちょうど残っていたスポーツドリンクを取り出してコップに注ぎ、それもお盆に乗せる。
そして救急箱を漁り、冷却シートと市販の風邪薬を取り出した。
その病人セットを2階の部屋に持っていくと、丁は汗をかいて暑苦しそうに布団を剥いでいた。
「丁くん、ご飯ちょっとだけでもいいから食べて?」
「うぅー...」
丁は起き上がったが体を動かすのがつらそうだ。
名前は水に濡らしたタオルで額の汗を拭ってあげた。
「一口でもいいから、ね?」
お盆をサイドテーブルに置いて、お粥の器を持つと一口掬って丁の口元へ持っていった。
丁はあまりお腹が空いていないようだったが、ゆっくり口を開けてお粥を口に含んだ。
「...っ!なんですかこれは...おいしい...!」
「本当?よかったよかった」
「ただのごはんなのに...!」
「あ、あまり食べすぎるのもダメだよ...!」
丁はがつがつ食べようとしたが、名前に止められてゆっくりと食べ始め、結局は完食してしまった。
「じゃあお薬飲んでゆっくり寝てようね」
名前は市販薬の瓶から子供の用量分だけ取り出し、丁に手渡した。
丁はその粒をじっと見つめていたがやがて口に含むと、とても嫌そうな顔をして名前の方を見た。
「に、にがいです...!」
「良薬は口に苦しだよ。ほら、これで流し込んで」
名前は水を忘れた代わりにスポーツドリンクを渡した。
丁はそれをがぶがぶと飲み、薬を流し込んだ。
「......っふぅ...」
一息ついて再び寝る体勢に入った丁のおでこに、名前がそっと冷却シートを貼った。
「っひゃっ...!?」
「あ、ごめんね。びっくりした?」
「なんですかこれは...?」
「冷却シートっていってね、貼ってると熱を吸収して気持ちいいんだよ」
「ほう......たしかに...」
そう言って再びうとうととし始めた丁の髪を名前はそっと撫でた。
「...治ったら、動物園でも行こっか」
「ん...いってみたいです...」
動物園がどんなところか分からない丁は、きっと何か楽しいところだろうと思いを馳せてゆっくりと眠りについた。