6:彼が熱中しているもの


『生放送でいっちゃって!地獄アイドル大食いバトル〜!』

ワー、パチパチパチ、と拍手と歓声が会場に響いた。

『さぁついにやって参りました、アイドルによる生放送大食いバトル!』
『今日はあの大物アイドルも参加ということで、会場は非常に盛り上がっております!たっぷり1時間お届けして参りますので、テレビの前の皆さまはお見逃しのないようご注意くださいね!』

会場にいる男女2名の司会者が場を盛り上げる。
本日名前は、この大食いバトルに呼ばれ初めての生放送に挑戦することとなっている。
ステージ裏に控えながら緊張を必死に落ち着かせた。
次々と参加するアイドルがステージへと上がっていく。
やがて名前の番が来た。
名前は気を引き締めてステージへと上がった。

『そして最後は〜っ?鬼川名前ちゃん!』

名前はカメラに向かってぺこりと会釈した後、めいっぱいの笑顔で両手で手を振った。

『本日は計10名の挑戦者に競争していただきまぁす!』
『さぁ本日フードファイトする料理はなんとォ!血の池で煮た脳吸い鳥の温泉卵、地獄卵玉!好き嫌いの別れる地獄名物のこの珍味!充満する匂いに既に顔色を悪くしている挑戦者も数名おります!』
『ルールは簡単!制限時間は20分!時間内により多く食した方が優勝となります!』
『優勝者にはなな、なんと!30分間のトークと宣伝権、賞金100万円が贈呈されます!』
『それでは皆さん、準備はよろしいですか?』
『『よ〜いスタート!』』

掛け声を合図に、目の前に積まれている剥かれた卵を飲み込むように食し始めた。
名前は見た目は細身〜普通体型だが、胃袋はブラックホールのように際限なく入る。
地獄に来てからかなりの量を食べられるようになったのだ。
もちろん普段はそんなにたくさんの量は食べないが、いざやれと言われたらいくらでも入る胃袋なのだ。
他のアイドルで似たようなタイプがいるかどうかは分からないが、どちらかというと今日は勝つ自信の方が強かった。
おまけに大食いの対象は地獄珍味の温泉卵だ。
名前の大好物である。

『おっと既に2名が脱落!早い!』

隣のアイドルが名前と同じペースのようだ。
100万円はどうでも良いが、トークと宣伝がかかっている。
名前はなんとしてでも勝たねばならないと思い、食べるペースを更に上げた。





『さぁ残すところ1分!残るは新人アイドル苺姫と人気アイドル鬼川名前だ!新人アイドルの意地か、人気アイドルのプライドか、どちらが勝つのか〜!』

続々とアイドルが脱落してゆき、隣に座るアイドルのみが敵となった。
新人アイドルなぞに負けるわけにはいかないと思ったが、名前も少しずつ限界へ近付いてきている。

『食した数はほぼ同じ!どちらが勝つのか目が離せない〜!』

つらい、つらい、と思い始めた頃、ガタン!と隣の椅子が音を立てて倒れた。
隣にいたアイドルが立ち上がったのだ。
そして立ち上がった彼女は、もう限界と言わんばかりに一目散に裏へと駆け出して行った。

「(あれ?もしかしてわたし...勝った...?)」
『おっとここで苺姫がギブアップゥ〜〜!!必然的に...鬼川名前の勝利となりました!!』

ピタリと食べる手を止めると、男性の司会者が勝利を告げ、名前の片手を取り上方に上げた。
名前はきょとんとした顔をしていたが、カメラが回っていることに気付いてにこ、と笑った。

『今のお気持ちを!』
『うふふ、とっても嬉しいです。応援してくれたみんな、ありがとう!』


「すんごいねぇこの子」

食堂でテレビに釘付けになっていたのは、鬼灯と閻魔大王と、たまたま閻魔庁に来てご一緒しているお香だ。

「こんなに細いのにどこに入ってるのかしら...羨ましいわァ」
「そういえば鬼灯くん、この子好きだったよねぇ」
「名前さんは昔から好きですよ、グッズも持ってます」
「鬼灯様もアイドルとか興味あるのねェ、マキちゃんとも仲良いみたいだし」
「それ、この間大王にも全く同じことを言われました」

テレビの中の名前は、大量の温泉卵を食べた後で苦しい状態であろう。
しかし食べ終えた後そのまま30分間のトークをし始めた。

「鬼灯くんにそんな趣味があったなんて...鬼灯くんああいう子タイプなの?ミステリーハンターは?」
「ええ。ミステリーハンターも好きですが、付き合いたいのは名前さんですねぇ。そもそもミステリーハンターは生者ですし」
「そうだったのねェ。彼女のどんなところが好きなの?」
「見た目と反して沢山食べるところとか、獄卒でないのに地獄に詳しいところとか、意外と獄卒向きなところとか、ですかね。顔もですが。あと清純を守り通しているところも好感です」
「大好きなのね」

でも彼女は...とお香は口に出そうとしたが、鬼灯の気持ちを踏みにじらないよう配慮して言葉を続けるのをやめた。


彼が熱中しているもの
(独身の彼がアイドルとはいえ女性に夢中になることは良い事だわ)
(応援してあげなくちゃ)



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