5:獄卒体験


新人獄卒向け雑誌“獄卒マガジン”。
今年度は多方面のアイドルとのコラボが決まっている。
アイドルが交替で地獄巡りをし、その場所について取材・撮影を行い、その場所がどういったものか・どんな雰囲気なのかを気軽に知ってもらうための特集である。
有名なアイドルほど請け負う場所も増えるわけだが、名前は今日、本雑誌の目玉の一つである閻魔庁での仕事を行うことになっている。
獄卒らしい動きやすい格好に着替えた名前は、いつになく緊張していた。
注目されやすいページだから、大きな仕事だから、という理由もあるが、憧れの鬼灯・閻魔庁・なかなかお目にかかれない閻魔大王...など、貴重な経験すぎて失敗しないかとても不安になった。

「なんだか最近、鬼灯様と関わることが増えた気がします」
「嫌ですか?」
「とんでもない!大変光栄です!」
「私もですよ。...さて、本日名前さんにやっていただくのは、側で裁判を傍聴し雰囲気を掴みつつ、逃げた亡者を捕まえていただく役です」
「はい!」
「もし捕まえられなかった場合は私が引き受けるので安心してください」
「う...お手を煩わせないよう頑張ります...」
「名前さんの仕事は本来雑誌の取材ですから、あくまでも裁判所の雰囲気を感じ取ることを優先にしてください」
「わかりました」
「こちらは一般獄卒が持っている金棒を軽量化したものです。場合によってはお使いください。それでは行きましょう」





裁判は着々と進んでいき、特に問題もなく午前の部最後の一人の番となった。
名前は大きな問題もなく終えることができてよかったと安心したが、まだ最後の一人が終わっていないことを思い出して再び気を引き締めた。

「万引き、痴漢、強盗殺人...」
「俺はやってねえっての!!!」

本日裁いた亡者の中でもより一層大きな声が響いて、名前はびくりとした。
視線を亡者にやると、プロレスラーのような体格の男が立っていた。

「やってるってんなら証拠見せな!!」
「仕方ないですね...」

鬼灯は浄玻璃鏡のスイッチを入れ、悪行を探し亡者に見せた。

「さあ!これで言い逃れできませんよ!」
「くっ...!」
「決定!閻魔庁の判決は衆合地獄とする!」
「く、くそ!クソクソ!俺は地獄になんて行かねえ!!!天国に行くんだ!!!」

より一層声を張り上げた体格の良い亡者は、両隣にいた獄卒を振り払うと出口へ向かって走り出した。
名前は出番だと思い、亡者の前に立ち塞がった。
閻魔大王の隣から名前さん!と呼ぶ声が聞こえた。

「おめェもイイ女そうだからついでに攫ってってやらァ!!」

と、体格の良い亡者は名前を連れ去ろうとしたが、名前はその亡者めがけて金棒を振り上げ、思いっきり頭に振り下ろした。
ガズンと鈍い音がして、亡者は頭から血を流して倒れた。

「イッテェ...!くそ、俺をナメん....っ」

再び立ち上がろうとする亡者に、名前は何度も何度も金棒を振り下ろす。
漸く気絶したと見られる亡者を見て、名前は我に返った。
衆合地獄で感じた時と同じ気持ちが蘇る。
今度こそやらかしてしまった!
カメラも入っている、わたしを知る一般獄卒もいる、なんなら鬼灯様や閻魔大王まで!
ああぁぁぁと頭を抱えてしゃがみ込んだ後、顔を上げてカメラマンに向けて言った。

「カメラマンさん!今の!撮った!?」
「と、撮りました...」
「絶対!絶っ対使わないで!!」

そうこうしているうちに目の前で伸びている亡者は獄卒によって回収されていった。

「はぁ......」

立ち上がって溜息をつくと、前方から拍手が聞こえた。

「素晴らしい...素晴らしいです、名前さん」
「鬼灯様...すみません...」
「謝ることなんてひとつもないですよ。むしろ貴女を是非獄卒として迎えたいです」
「それは困ります」

名前は苦笑いした。

「......おや?それは、もしかして私のですか?」
「え?これですか?」

名前は片手で金棒を持ち上げた。

「すみません、違う方を渡してしまっていたようです」
「でも、軽いですよ?」
「...貴女はすごい方ですね。その金棒は、金棒が認めた鬼にしか扱えないものです」
「えっ」
「本当に素晴らしい方ですね」

鬼灯はベタ褒めだが周りにいた獄卒は少々引いているようだ。
本当にやってしまった、と名前は思った。

「名前さん、この後取材が終わってからのご予定は」
「いえ、今日はもう終わりですが」
「よかったら拷問体験をしてみませんか?」
「そんな貴重な体験をさせていただけるんですか...?」
「もちろん。是非ともお願いしたいです。拷問体験と言う名のスカウトでもありますが」
「...いいですけど、カメラは一切なしでお願いしますね」

名前は笑いながらそう言った。


獄卒体験
(わあ針口虫!初めてこんな近くで見ました。かわいいですね)
(やっぱりこの方、アイドルにしておくのはもったいないくらい獄卒としての素質がありますね)



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