4:好きになりそう


取材が終わった後名前が鬼灯に電話をすると、鬼灯は近くにいたようですぐに合流できた。

「すみませんお待たせしてしまって」
「大丈夫ですよ。仕事をしていましたから」

この後また戻って仕事をすることは秘密だ。
もしそう言えば彼女は食事に付き合ってくれなかっただろう。

「どこかいいお店ご存知ですか?この辺りはあまり詳しくなくて...」
「ええ。こちらへ」

二人は少し歩いた先にある店へと入った。
店内は白い石で作られたかまくらがいくつも並んでおり、客はそれぞれかまくらの中で料理と酒を楽しんでいた。
名前と鬼灯もかまくらへと案内された。
二人用の個室で、テーブルを前に二人で並んで座るタイプのようだ。
鬼灯は名前が上座になるよう、腰に手を添え自然に奥へと誘導した。
鬼灯はテーブルに置いてあるメニューを手に取った。

「飲み物は何にしましょうか」
「えっとじゃあ....ピーチウーロンで」
「わかりました」

入り口に控えていた店員は二人分の飲み物の注文を鬼灯から受けると、どこかへ行ってしまった。

「苦手な食べ物はありますか」
「いえ、特にないです」
「ここの料理はどれも美味しいですよ」
「そうなんですか、楽しみです」

鬼灯様はおモテになりそうだし、やっぱりこういうお店よく来るのかぁ、と名前は少し落ち込んだ。
パラパラとメニューを捲り、気になる料理をリストアップしていく。
飲み物を運んできた店員に料理を注文するのも、鬼灯がやってくれた。

「(完璧じゃないですかぁ...)(慣れてらっしゃる...)(というか、近い...)」

名前は鬼灯の完璧すぎる手際に感動した。

「では乾杯しましょう」
「あ、はい」
「「乾杯」」

カチン、と二人のグラスが鳴った。





お酒もそこそこ、料理もそこそこ、会話とともに楽しんだ頃合い。
鬼灯は本題を切り出した。

「ところで、もう気持ちの方は大丈夫ですか」
「はい、鬼灯様のおかげです」

眉を下げてにこ、とぎこちなく笑うほろ酔いの名前を見て、まだ大丈夫ではないのだなと鬼灯は理解した。

「...大丈夫ではなさそうですが」
「あ...あはは...」

名前はまた困ったように笑ったあと、顔を俯かせた。

「無理にとは言いませんが、話した方がスッキリすることもありますよ」
「...なんて言うんでしょうね、こんな知り合って間もないのにお話しして良いべきなのか...」
「私は気にしませんよ」

そう言われて名前は、少しグラスを傾けたあとぽつりぽつりと話し始めた。

「わたし実は、鬼灯様と同じ人と鬼火のミックスでして、」
「ほう」
「生前もアイドルをしていたんです。全然売れませんでしたけど...」


彼とはライブで出会ったんです。お客さんでした。
彼は毎回ライブに来てくれて、イベントにも毎回来てくれていて、次第にわたしも惹かれていったんです。
バカですよね、ただのお客さんなのに。
売れない中来てくれることに舞い上がってしまっていたのかもしれません。
彼はわたしの告白をすぐに受け入れてくれました。
そして彼とお客さん以上の関係になってから1年くらい経った頃です。
彼は実は既婚者で、お子さんまでいる方だと知ってしまったのです。
わたしは彼と喧嘩の末、一方的に別れを告げました。
しかしそれで終わりではなかったのです。
その頃わたしは以前よりも少しだけ売れ始めて、ファンの方もたくさん来てくださるようになりました。
彼は出禁にしたのでライブやイベントにはもう顔を出さなくなったのですが、わたしを家までつけてくるようになったんです。
そしてある日、ついに家の中まで入られてしまいました。
“お前にどれだけ金をかけたと思ってるんだ”
“俺の想いを無視するのか”
“こんなにもお前を愛しているのに”
“俺だけのモノになってくれないのならお前を殺して俺も死んでやる”
やめて、おねがい、そう何度も投げ掛けたが、わたしの想いは届かず。
わたしはそのまま首を絞められて死んでしまいました。
その後彼がどうなったのかは知りません。


名前は話し終えて一息ついた。
二人の間に沈黙が走る。

「すみません、ごめんなさい、こんな暗い話を...」
「いえ、貴女は何も悪くありませんよ」

名前は過去のやりきれない思いを思い出したのか、俯いて小刻みに肩を震わせた。
膝の上で拳を強く握り、その上にぽつぽつと水滴が落ちる。
そんな名前の髪を、鬼灯は優しく撫で始めた。

「正直、」

鬼灯は言った。

「私もやりきれない思いでいっぱいです」
「え...?」
「やりきれないというか、きっと私がどうにかできた問題ではないのでしょうけど。あの亡者に猛烈に腹が立ってきました」

今度衆合地獄へ来た際はより一層痛めつけておきますね、そう言った鬼灯を見て、名前はふふっと小さく笑った。

「ありがとうございます」
「今の私にはこれくらいしかできませんから」

鬼灯は鼻をすすり涙を流す名前の肩をそっと抱き寄せ、また優しく髪を撫で始めた。

「す、すみませんなんか...お恥ずかしい...」
「いえいえ。貴女はずっと一人で頑張ってきたんでしょうから、たまには甘えないといけませんよ」
「(ああ...)」


好きになりそう
(払うと言ったのに結局ご馳走になってしまった)
(その後は紳士的に家まで送っていただきました)
(何から何まで完璧すぎる)



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