9:縁結びの神
「「マキと名前のあちこちレポート!」」
「今日はミキちゃんがお休みなので、ゲストの名前ちゃんをお迎えして現世へやってきました〜!」
今日はミキの代わりに名前が出演することとなった、あちこちレポート。
久々の現世に名前はワクワクしていた。
「ここはオフィス街で〜す!早速現世日本を守るビジネス戦士にインタビューしてみましょう!」
「お疲れ様で〜す!」
「どちらへお勤めされてるんですか〜?」
「地獄です」
少し目つきの悪い、全身黒づくめの男性に話しかけると。
鬼灯に瓜二つな人間がこちらを睨むようにして立ち止まってそう答えた。
マキは冷や汗をかいている。
「...鬼灯様?......にすっごく似てる......」
「本人ですよ。薬を飲んでます」
「こんな所で何をしているんですか?」
「10日間、派遣で営業事務してました」
「10日間も!?」
「あらまぁ...」
仕事のためと切られた髪は思いのほか似合っていて、名前は少し胸が高鳴った。
先程まで鬼灯がいた会社にすごい人がいたということで、マキと名前は案内してもらうことにした。
一方地獄ではーーー
閻魔と篁は縁結びの札の話など雑談をしながら何となく浄玻璃鏡をつけていた。
「あ、マキちゃんと名前ちゃん。この子ら鬼灯くんの知り合いなんだよ」
「へえ...可愛いですね。うらやましい......。
...ふと思ったんですけど、鬼灯様も彼女らも今現世にいるから神が縁結び対象としてみなすかもしれませんよ」
「それ可能性あるかも!やってみちゃおう!鬼灯くん名前ちゃん大好きだし...鬼川名前、と...」
30分後
「知人の可愛い女の子と珍しい場で偶然会ってんのに何亡者見つけて仕事してんの...」
「イヤ、でも提供されるキッカケは一つじゃないはず...。あ、ホラ」
「あっ、やだ」
「名前さん?どうしたんですか?」
「下駄の鼻緒が...」
マキが何事かと尋ねた。
どうやら名前が履いていた下駄の鼻緒が切れてしまったようだ。
「なんて不吉な...」
「靴擦れもしてるみたいですね...」
「どうしよう、靴買ってこようかな...でもオフィス街だし靴屋さんなんてないよね...」
はあ、と名前は溜息をついて俯いた。
「とりあえず、マネに言ってきますね」
「ごめんねマキちゃん」
名前と鬼灯は植木の埋まっている花壇のレンガ部分に腰掛け、マキはスタッフに事情を説明しに行った。
すると名前の隣に座っていた鬼灯は、懐から男性用のハンカチを取り出し、それを勢いよく千切った。
「鬼灯さま...いえ鬼灯さん!何してるんですか!?」
「下駄を貸してください」
もしかして、と思いながら下駄を差し出すと、千切った布切れをねじり、鼻緒が通っていた穴に通して結んだ。
そして通勤用バッグから絆創膏を取り出した。
「(女子力たかっっ)」
「足元、失礼しますね」
「いいいいいいえいえいえ自分で!自分で貼れますから!」
「じっとしていて下さい」
鬼灯は名前の前にしゃがむと、名前の素足を手に取り自分の膝に乗せ、赤く擦り剥けてしまったところに優しく絆創膏を貼った。
「下駄を履いてみてください。長さはどうですか?」
「あ、ちょうどいいです...すみません、ありがとうございます...。鬼灯さんのハンカチに足を通すなんて...申し訳ない...」
「気にしないでください。安物ですから」
「「おっ......おおおおぉぉぉぉ!!」」
閻魔と篁は嬉しさのあまり絶叫した。
「鬼灯くんが!鬼灯くんが優しい!」
「大成功ですね、大王!」
「もう骨折治ったんですか?」
「激しい動きをするわけではないので...いいかなって」
「いけませんよ。変な風に歪んでくっついてしまったらどうするんですか」
「肋骨ですから大丈夫じゃないですかね?」
「ハァ...」
「なんか、あれですね...いつもと違って新鮮ですね」
「私ですか。いつもの私とどちらが好きですか」
「もう、からかわないでくださいよ」
そこにマキが戻ってきて、もう撮影は終わりと告げられた。
「マキちゃんごめんね、鬼灯さんが鼻緒直してくれたの」
「え”っ!?」
マキは信じられないものを見るような目で鬼灯を見た。
「なんですか」
「い、いえ...」
マキはまだ撮影があるとのことで、スタッフ達の元に戻って行った。
「さて、私達は帰りますか」
「あ、はい」
立ち上がる時に鬼灯は手を貸してくれた。
優しさにときめきつつ、鬼灯と一緒に地獄へ帰ることにした。
空気だった亡者も忘れずに。
縁結びの神
(後日ネタバラシした閻魔は絞めあげられた)
(彼女に怪我をさせるキッカケを作ってしまったからだという)