最近成歩堂さんが話しかけて来なくなった。
もちろん挨拶とか、今日もみぬきをよろしくね、とか、普通の会話はしてくれる。
でも毎日の愛の告白は、ある日を境にパッタリと止んでしまった。
オドロキくんは相変わらずだけど。
わたしは何かをした覚えはないし、好き嫌い関係なく心配になってくる。

わたしはみぬきちゃんをお店に送り届けた後、こっそり事務所に向かった。
今日はオドロキくんはお休みと聞いていたのできっと大丈夫だろう。

事務所に着くと、成歩堂さんはわたしの来訪が分かっていたかのようにすんなり中に入れてくれた。


「一応聞くけど、いきなりどうしたの?」
「成歩堂さん、最近元気ないですね」
「そうかな?」
「なんていうか…その…」
「"告白してこなくなったから?"」
「え…あ…なんで…」


成歩堂さんはわたしを壁際に追い詰めて、顔の横に手をついた。


「な…」
「名前ちゃんに振り向いてほしくてわざとやった、って言ったらどうする?」
「あ、あの…近いです…」
「おっと」


成歩堂さんはもう片方の手で逃げ道を塞ぎ、逆方向から抜け出そうとしたわたしを完全に囲った。


「逃がさないよ」
「な、成歩堂…さん…?」
「まんまと罠にひっかかってくれちゃって。ねえ、わかる?ぼくが真剣だってこと…」
「あ…」
「告白してもらえないと寂しい?いくらでも言ってあげようか。そこにベッドもあるし」
「や、やめ…っん…」


一瞬何をされているのかわからなかった。
唇に何か柔らかいものが触れていて、温かくて、そこでやっと理解した。


「んなっ…!?」
「っ!?」
「…誰」


声がしたので振り向くと、そこには私服のオドロキくんが立っていた。


「あ、お、お邪魔しましたっ!!」


彼はそう言うとダッシュで事務所を出て行った。
わたしは成歩堂さんが気を抜いている隙にサッと抜け出してオドロキくんを追いかけた。





「はぁ…お、オドロキくんっ…!まって…!」


ヒールで足がもつれそうになりながらも、オドロキくんを必死に探して追いかけた。


「名前さん!?」
「はあ…は…」
「名前さん…どうして…オレなんかを追いかけちゃダメじゃないですか」
「まって、ちがうのっ…」
「何が違うんですか!あんなところ見せつけておいて、からかいに来たんですか?」
「は、話を、聞いて…」
「聞きたくないです」


せっかく止まってくれたのに、再び歩き出そうとするオドロキくんの裾を掴んだ。
オドロキくんは黙って息を整えるわたしを見つめていた。


「あ、あれは…成歩堂さんがいきなり…」
「そうは見えませんでしたけど。名前さんも満更でもなかったんじゃないんですか?」
「そんな…どうしてそんなこと言うの?」
「オレみたいな子供なんかより成歩堂さんみたいな大人の方がいいに決まってますもんね」
「………」
「ほら、何も言い返せないじゃないですか。もういいです。オレはもう言い寄ったりしないので、幸せになってください」
「っ……う」
「………」
「き、きらいに、ならないで…」
「…なんで名前さんが泣くんですか。オレが泣きたいですよ…」
「わたしが…好きなのはっ…オドロキくん、だよ…っ」
「え…」


わたしはオドロキくんに抱きついた。


「例えオドロキくんが子供でも、童貞でも、わたしはオドロキくんが好きなのにっ!」
「一言余計です…!」
「なんでわかってくれないのぉ…」
「名前さん…」


オドロキくんはぎゅ、とわたしを抱き締めて、頭を撫でてきた。
成歩堂さんにされるのとは違った安心感がある。


「名前さん、ごめんなさい…泣かないでください…」
「うう…ひぐ…」
「オ、オレ!名前さんのこと!幸せにしますからっ!」
「お願いします…」
「もう一人で成歩堂さんに近付かないでください」
「はい…」
「名前さんの唇を奪ったことは許せません。名前さん、キスさせてください」


わたしが答えを言う前に、オドロキくんは唇を合わせてきた。


「……」
「……」
「…もう一回」


それから何度も何度も、深く口付けするわけでもなく、ただただ何回もキスをした。
お世辞でも上手いとは言えない子供みたいなキスの嵐に、わたしは幸せを感じていた。



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