14


ゆさゆさと体を揺さぶられる感覚で鬼灯は目を覚ました。

「おはよ。もう10時だよ」
「.........」

鬼灯は眠そうに再び目を閉じた後、きゅっと名前を引き寄せて名前の髪に顔を埋め、二度寝の体勢に入った。

「っ......」

名前は抱き寄せられた事に赤面し、お兄ちゃん、と声を発しようとしたが実際に声に出ることはなかった。

「......名前が、」
「?」
「私の元を離れて他の男と付き合う夢を見ました」
「......ただの夢だよ」
「......そうですね」

年齢差を気にして名前の気持ちに応えないくせに、離れたら離れたで悲しんでいる自分がいる事に鬼灯は気が付いた。
名前はそんな鬼灯の頭をよしよしと撫でた。

「私はどこにも行かないよ?」
「...どうでしょうね」
「信用がないの?あーあ傷ついた」
「キスしたら許してくれますか?」
「ばっ...!...ゆ、ゆるす...」

そう言う名前に鬼灯は触れるだけの軽いキスをした。

「朝ごはん作ろうか?」
「作ってくれるんですか?」
「うん、いいよ。お兄ちゃんはまだゆっくり寝てて。台所借りるね」

部屋を出て行く名前を見送り、鬼灯は再びベッドに体を委ねた。

「(まるで彼女みたいですね)」

そんな事を考えながら再び眠りについた。


ローテーブルに皿を置く音で目を覚ますと、テーブルにはトーストとスクランブルエッグ、焼いたベーコンが置いてあった。

「美味しそうですね」
「へっへーん。どうぞ召し上がれ」

ぱくり、とその並んだ食事を口にすると、まぁ焼くだけなので当たり前だが普通に美味しかった。

「...どう?」
「...まぁ合格です」
「よっしゃー!」

名前は合格と言われた事に嬉しそうな声を上げながらガッツポーズをし、鬼灯はそんな名前を可愛いなと思いながらパンを口にした。

「お兄ちゃんてさ、やっぱ新人時代は接客とかやったの?」
「やりましたよ。店舗で1年、半年店舗責任者をやって、そして異例のスピード昇進で本社勤務。からの突然の異動。振り回されてます」
「うわめっちゃドヤ顔...お兄ちゃんが店舗で接客とか想像つかない...」
「失礼な。仕事の時くらい愛想よくしますよ。と言ってもお高いスーツを売っている所なのでそんなにペラペラと話す必要もないんですが」
「えーじゃあ今やってみて」
「やりません」
「ケチ。でもいいなぁ。仕事できる人ってかっこいい」
「...それはどうも」
「あっ照れてる」
「照れてません」


食器を片付けて二人でゴロゴロとしていれば時間はあっという間に過ぎてしまい、鬼灯が家を出る時間となってしまった。
送ると言って聞かない名前を「一人で帰らせるのが不安だから来なくていい」と止めようとしたがどうしても言う事を聞かず、埒があかないと判断した鬼灯は新幹線の通っている駅まで名前を連れてやって来た。
券売機で乗車券を買い、名前の分の入場券も買い、待合室で椅子に腰掛けて時間を待つ。
名前はちら、と隣にいる鬼灯の手を見た。

「(骨ばってて、大きくて、綺麗だけど男らしい手だなぁ)」

そう考えて胸がきゅんと高鳴るのを感じた。
以前帰り道で手を繋ごうとした時は怒られたが、今回はいけるだろうか、とそっと鬼灯の手に触れると、少しした後その温かい手に握り返され、どきんと心臓が大きく跳ねた。

「顔赤いですよ」
「う...うるさい...」

初々しくて可愛いな、と鬼灯はそんな名前を見て思った。

「......寂しい」
「...また来月来ますよ」
「...そうだけど...」
「電話もします」
「......うん」
「そろそろホーム行きますか」

ホームへと上がり、列の後ろの方で手を繋いで列車を待った。
最初は普通に繋いでいたが、途中で鬼灯が指と指を絡め恋人繋ぎになると、名前は嬉し恥ずかしくなって顔を俯かせた。
やがて列車がホームへと到着し、前に並んでいた列はぞろぞろと車内に入って行った。

「...じゃあ、」

そう言って鬼灯が繋いでいた手を離すと、名前が鬼灯に抱きついてきた。

「こら、人が見てますよ」
「...ちょっとだけ」
「.........」

鬼灯は仕方ないな、とでも言いたげに名前の頭を撫で、体を離して屈むと名前の頬にちゅ、と軽くキスをした。

「!?ひ、人が見てっ...!」
「おあいこです。ではまた来月」

鬼灯はそう言って車内へと入り、やがて扉が閉まった。
鬼灯はひらひらと手を振るが、名前は涙を浮かべ、列車が動き出しても動きに合わせて走った。
危ないからやめろ、と言いたかったが声が届かないのがもどかしい。
やがて速度に追いつけなくなって名前は見えなくなり、関西方面へと向けて列車は走って行った。
鬼灯は座席に座り、ここ二日間の名前を思い出し心の中で微笑みながら眠りについた。



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