互いに寝る準備をして、電気を消して、鬼灯の部屋の布団に二人で入った。
鬼灯は向かい合って寝転んだ名前に腕枕をし、もう片方の手で名前のさらさらの髪を撫でた。

「(...キスしたい)」

もう数え切れない程こうして名前と眠っているが、いつも以上に名前が愛おしく、額でも頬でもいいからキスがしたい、と思った。
もちろん唇が一番良いのだが、それをしてはいけないような気がして。

「...あのね」

さらさらの髪を撫でてその触り心地を楽しんでいると、名前がぽそっと呟いた。

「今日、初めて男の子に告白された」
「...良かったじゃないですか。どんな人なんですか?」
「野球部の先輩。しかもキャプテン」
「...いいですねぇみんなの憧れじゃないですか。付き合うんですか?」
「...付き合わない、と思う」
「何でですか、勿体無い。色んな男と付き合って色んな経験をした方がいいですよ」
「.........私、は......」

名前は何かを言いづらそうな顔で黙り込んだ。
鬼灯はそんな名前の表情がよく見えるように、名前の顔にかかった髪をどけた。
名前は眉を下げて目を伏せている。

「私は?」
「......私、は.........お兄ちゃんが、好きだから...」
「.........」

ドクン、と鬼灯の心臓が跳ねて、思わず髪を撫でる手を止めた。
どういう意味で言っているんだ、と思ったが、それを聞きたいような、聞いてはいけないような。
その後二人共黙り込んでしまった。

「.........な、なんか、言ってよ...」
「.........いえ、何と言えばいいのか分からなくてですね...」
「.........」
「.........」

鬼灯はどうすればいいのか分からず、髪を撫でる動作を再開した。
これがもし恋愛の意味で言っているのならば、嬉しいが応える事はできない。
自分はとうに成人を迎えた社会人で、名前は高校生だからだ。
それにこれくらいの年頃の女子は年上の大人に憧れるものだ。
勘違いをしてはいけない、のに。
どうしても嬉しくなってしまう自分がいる。
やがて名前はその空気に耐えられなくなったのか、両手で顔を覆ってしまった。

「.........好き...」
「.........」
「好き、なの......すごく」
「.........」
「大好きだからずっと一緒にいたい......けど、お兄ちゃんとこうして一緒にいられなくなるのは嫌だから......お兄ちゃんが迷惑なら、好きなの、やめる......」
「......迷惑とは言ってません」
「.........」
「嬉しいですよ。ありがとうございます」
「.........」
「ですが、今貴女の気持ちに応える事はできません」
「っ.........」

名前はしばらく黙っていたが、そのうち肩を震わせて鼻をすすり始めた。

「泣く程好きなんですか?私の事」

名前は声を出す事なく、こくこくと小さく頷いた。
鬼灯はふぅ、と鼻で小さく溜息をついた。

「貴女の気持ちを否定するつもりはありませんが、貴女くらいの年頃の女子は、学校の先生や私のような大人に憧れるものです」
「っ.........」
「そう理解しているつもりですけど、そんなに好き好き言われたら、勘違いしますよ?」
「.........?」
「貴女が本気で私の事を好きだって」

鬼灯はそう言って、腕枕をしていない方の手で名前の手を顔から剥がし、前髪を捲って露出した額に唇を押し付けた。
名前は額に感じた温かく柔らかい感触に、目を見開いた。

「な、...え、えっ...?」
「今はこれで我慢して下さい」
「え、え...?どういう事...?」
「名前が大人になったら分かりますよ」
「.........」
「もう寝なさい」

そう言って鬼灯は名前の背中に再度腕を回し、ぎゅっと抱き寄せて寝る体勢に入った。
名前は色々考えてしまいその後しばらく眠れなかった。


次の日名前が学校を終え、寝る支度をして電気がついている鬼灯の部屋へと渡ると、大きめの段ボールがいくつか積み重なって置かれていた。
部屋の中は昨日よりも物が減っている。

「え......どういう事...?」
「ずっと言えずにすみません。実は転勤する事になったんです」
「え......いつ...?どこに...?」
「大阪です。来週の土曜にはここを出ます」
「っ...なんで、もっと早くに言ってくれなかったの...!?」

名前はぶわっと涙を溢れさせ、鬼灯のシャツを掴んで頭を擦り付けた。
鬼灯はそんな名前を優しく抱き締めた。

「毎日笑顔で駆け寄ってくる貴女を見て、言えるわけがないでしょう。泣くのが分かりきってるじゃないですか」
「っ勝手にいなくなった方が泣くんだけど!!」
「それはすみません、配慮が足りませんでした」

ズビズビと鼻をすすって泣き続ける名前の体を離し、鬼灯は屈んで名前の頬にキスをした。

「っ.........」
「昨日もそうでしたけど貴女はキスをすると泣き止みますね」
「...び、びっくりするから...」
「そうですか」

鬼灯はそう言う名前の両頬を手で包み、額から瞼へ、鼻へ、頬へ、唇の横へ、キスを落とした。

「〜〜っ......」
「顔、真っ赤ですよ」
「あ、当たり前でしょ...!」
「照れてるんですね。可愛いです」

そんな名前を再びきゅっと抱き締めた。

「...ねぇ、付き合ってくれないのになんでキスはしてくれるの...?」
「それは昨日も言ったでしょう。大人になったら分かりますよ」
「...遊んでる?」
「まさか。私が遊びでキスするような男に見えますか?」
「...でも、好きでもない女の人と付き合うじゃん。キスとか...そ、そういう事も、したんでしょ...?」
「......まぁ、それは、何と言いますか...」

性処理も兼ねてだ、と言ったら引かれそうだ、と思った。

「好きじゃなくても付き合えるなら、私と...」
「好きじゃないなんて誰が言いましたか」
「えっ......」

口が滑った、と思った。
鬼灯は思わず目を逸らして口元を手で塞いだ。

「え、」
「.........」
「好き、なの...?」
「......嫌いではないです」
「.........」

名前はむすっとした顔をした後、はぁぁぁ、と深い溜息をついた。

「お兄ちゃんのバカ。嫌い」
「そうですか」
「......うそ、好き」

鬼灯はそんな名前が愛おしくなり、優しく頭を撫でた。
それと同時に、意気地なしの自分に溜息をついた。



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -