春になり、名前が高校3年生になった。
そしてゴールデンウィークに誕生日を控えた名前は、鬼灯におねだりをしてみた。

「ねぇーどこか連れてって?」
「いつ、どこに」
「誕生日、舞浜」
「仕事です」
「ええぇーーー」

名前は抗議の声を漏らし、ベッドを背もたれにして本を読んでいる鬼灯に、ベッドの上から抱きついた。

「こら」

そんな名前の行動を咎めつつも、決して振り払う事はしない鬼灯。

名前がベッドで抱き締められたあの日から、二人の距離はぐっと縮まった。
お互い「好き」とは言わないものの、恋人といるような空気が流れているのは明らかだ。
以前は土日しか侵入してこなかった名前も、明らかに回数が増えて平日も一緒に寝る事が多くなった。
だいたい名前の方が先に起きて出て行くのだが。
そして眠る時は必ず鬼灯が名前を抱き締めて眠る。
後ろからの時もあれば前からの時も。
名前としては前ほど緊張する事はなくなったが、鬼灯と一緒にいたいという気持ちが強くなり、当たり前のように鬼灯にくっつく。
鬼灯は名前を拒む回数が減った程度で、相変わらず変に自分から触る事はしない。
歯止めが利かなくなるのが怖いからだ。

「ゴールデンウィークの舞浜なんて死ぬほど混んでますよ」
「うん、去年友達と行ったけどやばかった」
「でしょう。というか今年は友達と行かないんですか」
「お兄ちゃんと行きたいの」
「......。別に当日でなくてもいいのなら行ってもいいんですけど。どちらにせよゴールデンウィークは仕事ですし」
「ほんと?平日でもいいよ?学校休むし」
「ダメです。学校は行きなさい。来週の土曜でどうですか?」
「やったー!楽しみにしてるねー!」

名前はぎゅう、と抱き締めている腕に力を込めた。


そしてやってきた土曜日。
名前は疲れている鬼灯を早朝に付き合わせるのは可哀想だと思い、ちょうど昼頃に着くようゆったりと向かった。
そしていつもなら開園と同時に友達とはしゃぎ倒し、閉園まで園内を満喫するのだが、それは友達と一緒にやればいい、今はお兄ちゃんとの時間を大事にしよう、とまったり園内を回った。

「いいんですかこんなんで。もう少しはしゃぎたいでしょう」
「ううんいいの。そんなのは友達とやればいいし。私は今お兄ちゃんといる時間を大切にしたい」
「.........。誕生日なんですから、そんな気を遣わなくとも...」
「じゃあ、いっこワガママ言っていい?」
「はい、なんでしょう」
「......手、繋いでいい...?」

鬼灯は目を見開いた。
名前はかすかに頬を染めている。

「(......可愛い...)」

鬼灯は照れている顔を見られたくなくて顔を背けて何でもないような振りをしつつ、すっと名前の方に手を差し出した。
すると今度は名前が目を見開いた。
まさか本当に繋いでくれるとは思っていなかったのだ。
名前はきゅううう、と自分の心臓が締め付けられ顔が熱くなるのを感じた。

「繋がないんですか?」
「つ、繋ぐ...!」

名前はそろそろと自分よりも大きな鬼灯の手に自身の手を重ね、軽く握ると鬼灯も握り返してきた。

「(うわわわわ、お兄ちゃんと手繋いじゃった...!)」
「そろそろ夕飯食べに行きますか?その後ちょうどパレードが始まるくらいの時間じゃないですかね」
「あ、うん!...って、もしかして時間調べて来てくれたの...?」
「......行きますよ」
「わ、ちょっと...!」

鬼灯は名前の質問に答える事無く、名前の手を引っ張ってレストランのある方へ歩いて行った。


「お兄ちゃんって、かっこいいよね」

レストランに入って食事をしていると、名前が途中からじっとこちらを見つめてきているなと思っていたら、いきなりそんな事を口にしてきた。

「何ですか藪から棒に」
「いや、顔かっこいいなと思って」
「どうも。よく言われます」
「...そう言われるとなんかムカつくな」
「貴女も可愛いですよ」
「どうも。よく言われます」

名前が小馬鹿にしたような顔でそう言うと、鬼灯が眉を寄せて名前を睨んだ。

「こわ!そういう顔するからみんな引くんだよ!」
「今のは名前が悪い」
「だってほんとだもーん」
「誰に言われるんですか?」
「女の子」
「男は?」
「知らない。直接言われた事はない」

直接言われた事がなくとも、きっと影で噂はされているんだろうな、と鬼灯は推測した。

「ね、お兄ちゃんはカッコよくてモテるのに、なんで彼女作らないの?」
「ついこの前までいたじゃないですか」
「その後だよ〜」
「今の所寄ってくる女性がいないので」
「寄ってきたら付き合うの?」
「どうでしょうね。付き合うかもしれないですし付き合わないかもしれません」
「そういえば好きな人できたとか言ってたけど...自分からは行かないの?」

名前はそう言っていた事を思い出して、心臓がチクリと痛んだ。

「無理ですねぇ...(高校生ですし)」
「ほーん。お兄ちゃんって意外と臆病なんだね」
「.........」

鬼灯はハァ、と溜息をついた。
アタックして良いものならとっくにしているに決まっているだろう、という気持ちを込めて。

「聞き捨てならないので言いますけど、諸事情によりお付き合いができない相手なので自分から行動していないだけです」
「えっ?そうなの?」

名前はそれを聞いて心の中でガッツポーズをした。
付き合えると確定したわけでもないのに。

「あ......人妻とか?」
「貴女私を何だと思ってるんですか」
「違うの?」
「人の女に手は出しませんしまず好きになりません」
「えーじゃあなに?」
「秘密です」
「えー教えてよ〜」

相手が高校生だから、と言ったら引くだろうか。
いや引くだろう。
少なくとも名前が高校を卒業するまでは絶対に言ってはならない事だ、と鬼灯は思った。

「そろそろパレードの時間ですよ。行きましょうか」
「もー!はぐらかしたなー!」

そう言いつつも名前は先へ進む鬼灯の後を追いかけた。


その後感動の声を上げる名前の横でパレードを見て、売店で名前が欲しいと言っていたクマの人形を買ってやり、お土産を買い、外に出た。

「あ!待って、買い忘れたのある!」
「本当ですか?じゃあ中に...」
「いやいい!お兄ちゃんは待ってていいから!」
「そうですか。いくらですか?」
「いいからー!待ってて!」

そう言って名前は再度売店の中へと入って行った。
そして待つ事数分。
名前が買い物袋を持って鬼灯の元へ戻って来た。

「何を買ったんですか?」
「んー?秘密。さ、帰ろ!」

名前は鬼灯の手をきゅっと握って、出口の方へと向かった。
遊び疲れたのか、電車の中で名前は鬼灯の肩に頭を預けて眠ってしまった。
そんな名前をひと撫でしてから、鬼灯も眠りについた。


一時間以上かけてようやく家まで辿り着き、じゃあおやすみなさい、と言って鬼灯が家に入ろうとした。

「待って」

すると後ろから声がかかり、頬を染めて視線を下げた名前が鬼灯に近付いてきた。

「どうしましたか?」
「......あげる」
「え?」

名前は鬼灯から視線を外したまま、先程自分で購入した袋を鬼灯に渡した。

「なんですかこれ」
「だめ!部屋に帰ってから開けて!」
「はあ...まぁ、ありがとうございます」
「...じゃ、じゃあ」

それだけ言って、名前は自身の家へと入って行った。

鬼灯も自身の部屋に戻り名前から受け取った袋を開けてみた。
すると中から出てきたのは、名前に買ってあげたクマのぬいぐるみの、男の子バージョンだった。
名前が持っているのは耳にリボンがついた女の子バージョンのものだ。

「.........ハァ......」

鬼灯はそれを理解すると顔を手で覆ってずるずるとベッドを背にして座り込んだ。

「どこまで私を掻き乱せば気が済むんですか......」

クマのぬいぐるみを手にしたまま、もう一度ハァ、と溜息をついた。



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