名前は鬼灯の家を出て、なんとも言えない気持ちで家に向かって歩いていた。

「(抱きしめられた...)」

鬼灯の事は好きだ。
だからこそ余計に元カノには会ってほしくない。
だが理由はそれだけではない。
元カノは名前に嫌がらせをしてくるのだ。

以前一度、自分は鬼灯の友達だ、少し話をしないか、と駅前を歩いている時に話しかけられた事がある。
なんの話だろう、と思いついて行けばいきなり路地裏に引き込まれ、頬を叩かれた。

「この泥棒猫!」

そう言って名前の髪を掴み、ガクガクと頭を揺さぶってきた。

「なんの話っ...!」
「アンタのせいで私は鬼灯に捨てられたのよ!許せない!」
「は、はぁっ...?なんで私のせい...」
「そういう鈍い所もイラつく」

名前は抵抗しようとして、同じように彼女の髪を引っ張った。

「痛い!!」
「こっちが痛いわ!!」
「離して!!」
「あんたが離せ!!」

響き渡る怒鳴り声に通行人が路地裏を覗くが、関わらないでおこうと知らんぷりして皆通り過ぎて行った。
ようやく彼女が名前の髪を離すと、名前も彼女の髪から手を離した。

「あんたみたいなブス死んじまえ!」
「はぁ?意味わかんないんだけど!捨てられた自分が悪いんでしょ!?」
「あんたが鬼灯に色目使ったからでしょ!!」
「はぁぁ??使ってないし!!」
「コラ!そこで何してる!」

男の大きな声に二人はビク、と肩を震わせて、路地の向こうを見た。
警官が立っている。
きっと誰かが通報したのだろう。

「すみません、なんでもないです」
「フンッ」

彼女は謝りもせず反対側の道へと抜けて行った。
名前は警官にただの喧嘩ですすみませんと謝り、すぐに開放してもらえた。

そんなことがあってから、名前は彼女のことが大嫌いだ。
別れたはずの二人が今も会っているのは知っている。
それが何よりも悔しい。

「もうやだっ...何が大好きですよだよ...ばか...きらい...」

そんな事をぶつぶつと呟いていると、ガサガサッと近くにあった花壇の葉が揺れた。
名前は怪訝そうにそちらを見たが、なんでもないと分かると再び前を向いて歩き始めた。
すると先程の花壇から一際大きな音を立てて何かが飛び出し、名前は振り向く間も無く口元を薬品の染みた布で覆われ、意識を失った。


「......う...、」

次に名前が目を覚ますと、鬼灯の家の寝室にいた。
口元を布で縛られ、腕も後ろで縛られている事に気付く。

「お目覚めかな」

名前が声が聞こえた方を振り返って見ると、痩せこけて無精髭の生えた、いかにも頭のおかしそうな男が立っていた。
男は机の上に置いてある銃を手に取り、名前の首に押し当てた。

「っ...!!」
「引き金を引かれたくなきゃ...言う事ちゃんと聞くんだぞ?」

名前は何も言わずギロリと男を睨んだ。

「おおー怖い怖い」

男はそう言いながら離れ、リビングへと行ってしまった。
男はリビングに設置したモニターを見た。
そしてモニターに映る鬼灯と白澤を見て、ニヤリと笑った。


そんな白澤はまさか鬼灯の家で監視されているなどとは考えておらず、名前との会話を思い出していた。


「で?誰?その好きな人って」
「えへへ。大学時代の友達なの。今も仲良いよ」
「写メとかないの?」
「写メはあんまり撮らせてくれないんだけど...写真ならあるよ」

名前はバッグからスケジュール帳を取り出し、一番最後のページに仕舞ってある写真を取り出した。

「これ」

その写真は、有名なテーマパークの城をバックに記念撮影されたものだった。
二人でキャラクターの耳を象ったカチューシャをつけて仲良さそうに肩を組み、ピースをしている。
名前は満面の笑みを浮かべているが、隣の男は真顔でピースをしていた。

「(仏頂面...)」
「かっこいいでしょ?」
「まぁ、悪くはないんじゃない。でも二人でこんなとこ行くくらい仲良いのに、なんで付き合わないの?」
「なんで...?なんでだろう...でも告白なんてできないよぉ...もし相手が全然そんなつもりなかったら、友情関係破綻しちゃうじゃん...」

白澤は名前に写真を返しながら顔を綻ばせた。

「可愛いねぇ名前ちゃんは。僕ならそんな悲しい思いさせないのになー」
「またまたぁ〜」
「本当だよ?ちなみに名前ちゃんはそいつのどこが好きなの?」
「えっ?ど、どこだろ〜...」

名前は照れながらもじもじとし始めた。

「(可愛いなぁ...あいつにやるの勿体無いな)」
「一緒にいて気が楽だから...かな?」
「顔じゃないの?」
「顔もいいけど...なんなら学歴も職種もいいけど...でも大切なのはフィーリングだよ!」


「(ハイスペックかよ。なんかムカついてきた)」
「なんですか?人の顔ジロジロ見て」
「別に」

白澤はバスタブに写真を隠して鬼灯から見えないようにしながら写真を眺めた。

「何してるんです?」
「.........」
「ちょっと」
「...いちいちお前に報告する義務はないね」
「...お互い協力し合うべきだと思いますが」
「鎖で繋がれて動けないだろ」
「だから考えるんですよ」
「考えてるっての!」
「じゃあ考えてる事を言ったらどうです?」
「...明かりを消せ」
「は?」
「明かりを消してみろっての!」
「何故です?」
「いいから消してみろ!」

鬼灯は怪訝そうな顔をした後、しぶしぶと電気を消した。
バスルームは再び闇に包まれた。



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