「患者は前頭葉に手術不可能な腫瘍があります。大腸癌が転移したのでしょう。最初に検診に来て以来、患者は病状の進行を観察しています。患者は...」
「鬼灯先生。緊急で来客です」
「...すみません。一旦失礼しますね」

鬼灯は溜息をつきミーティングルームを後にした。
応接室に入ると、刑事らしき人間が一人、ソファに座っていた。

「鬼灯先生。お邪魔して恐縮です。刑事の田中です」

立ち上がって挨拶をしてきた刑事に「お掛けください」と声をかけ、鬼灯も向かい側のソファに腰を下ろした。

「どのようなご用件でしょうか」
「昨夜23時から1時までどこにいましたか?」
「...なぜです?」
「お聞きしたい事があります。先生のためにもお話は署で伺いたいのですが、来ていただけますか?」
「生憎ですが無理です。仕事がありますし、今日は車で来ていないんです」
「私の車で一緒に行きましょう」
「...すみませんが、一体どういうことです?」

刑事はパッケージされたペンライトを胸ポケットから取り出して、机の上に置いた。

「...先生のですよね?」

鬼灯は机の上に置かれたペンライトを手に取り、訝しげな顔でそれを見つめた。
最近失くしたと思っていたものだ。

鬼灯はその後、無実を証明するために知り合いの弁護士である篁に声を掛けた。

「なぜ殺人現場に鬼灯さんのペンライトがあったんでしょうか...」
「知りませんよ...」
「答えてください。昨夜貴方は何をしていたんですか?」
「...人と会っていました」
「誰とです?」
「.........」
「弁護士として言いますが...」
「、患者ではない人と会っていたんです。...どうすれば無実を証明できますか?」
「...弁護士としてはっきり言わせていただきます。正直にアリバイを話す事です。ウソは身を破滅させますよ」

鬼灯はまさか名前の嫌いな元カノと会ってあれこれしてました、などと言えるわけがない、と思ったが、自身の無実を証明するためにも諦めて元カノに連絡を取ることにした。


「当たり前ですがアリバイはとれて解放してもらえました」
「じゃあこれは同じ奴の仕業だって言いたいの?」
「間違いないでしょう」
「ははっ...その話が真実だって証拠がどこにあるの?もしかしてお前が僕をここにっ...」
「私も貴方と全く同じ状況ですよ」

鬼灯は噛み付く白澤に対し気怠そうに答えた。

「違う!同じじゃないじゃないか!お前には“情報”がある!犯人を知ってるじゃないか!」

白澤は先程ノコギリを投げつけて割れた鏡の破片を拾い上げ、それを鬼灯に向けた。

「本当のことを言わないとこれで切り刻んで...っ」
「......?」

急に黙り込んだ白澤を鬼灯は訝しげな目で見つめた。
白澤は割れた鏡の破片を何度も何度も裏返しては確認するように眺めている。

「どうしたんですか?」
「...マジックミラーだ」
「......!」

白澤は近くに落ちていた石を鏡に向かって思い切り投げた。
大きな音を立てて鏡は割れ、そこに更に追い討ちをかけるように石を投げつけると、鏡は完全に崩れ落ちて中が露出した。
そこにあったのは、ガラス越しにある監視カメラだった。

「なるほど、生中継か...。聞こえるか?楽しいぜ!ライブ中継とはな!」

次々とカメラに向かって石を投げつけるが、厚いガラスで覆われていてカメラには当たらない。
そんな白澤を見て鬼灯はハァ、と溜息をついた。

「無駄ですよ」
「見られてるだろ」
「鎖も切れないしガラスも割れません。全て奴は計算済みです」
「褒めてんの?」
「敵に勝つには敵の力を認めること、それが大切です」
「.........」
「テープで言っていた“X”がどこかにあるはずです。捜さないと」

鬼灯はそう言って辺りを見回し始めた。

「名前ちゃんを誘拐されてるのに随分冷静だな。名前ちゃんのことも考えてるか?」

時間は0時を過ぎていた。

「もちろん考えています。......名前に言った最後の言葉も」



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