黒いビニール袋を開けると、中には弱々しいノコギリが2本入っていた。
白澤は我先にとノコギリを手に取り、鎖に当てて前後し始めた。

「ちょっと。私にもくださいよ」

白澤は一瞬動きを止めた後、鬼灯にもうひとつのノコギリを投げた。

「チッ危ないな」と声が聞こえたが無視した。
鬼灯も白澤も一生懸命ノコギリを動かすが当然のように鎖は切れず、やがて白澤のノコギリが壊れ、「くそがぁっ!!」と吠えた後バスルームの鏡に向かってそれを投げつけた。
鏡は大きな音を立てて割れた。
しばらくして鬼灯も鎖を切ることを諦め、ノコギリをじっと見つめた後、察したように宙を見つめてノコギリをその辺に放り投げた。

「...鎖を切るためのものじゃない、という事ですね」
「は...?」
「“足を切れ”と」

白澤は自身の足とノコギリを見比べてゴクリと息を飲んだ。

「犯人の検討がつきました」
「誰だよ」
「個人的には知りませんが...警察は今も彼を追っているはずです。私も一連の事件で容疑者扱いされました」
「マジかよ」
「初めから話しましょうか。...半年前のことです。私に殺人罪のワナをかけてきたんです」


半年前ーーー

警官が地下室に降りると刃のついたワイヤーにぶらさがって死んでいる男がいた。
男は酷い臭いを放っており、警官は思わず鼻を腕で覆った。

「死んで三週間は経っているようです。
被害者は46歳男性、死因は大腿動脈からの大量出血。
カミソリのついたワイヤーを抜けようと無謀にも突っ込んだようです。
傷はとても深く床には胃酸の跡がありました。
...そしてこれも」

鑑識係はカチリとカセットテープの再生ボタンを押した。

『やあ松本君。
君は極めて健康的な中年の男性だ。
だが先月、手首をカミソリで切った。
本当に死にたかったのか?それとも気を引くためか?
今夜答えがわかる。
皮肉だな、死にたければそこから出てはいけない。
だが生きたいならまた体を切るのだ。
カミソリ・ワイヤーを抜け出口へ。
だが急ぎたまえ。
3時に扉は閉じ、ここが君の墓になるのだ。
生きるために血を流せ、松本くん。』
「扉はタイマーで3時にセットされ、閉まるまでの猶予は2時間でした」


鬼灯は一連の惨い事件を思い出しながら白澤に語った。
「新聞は連続殺人犯として取り上げました。だが厳密に言えばこれは“殺し”ではありません。彼自身は殺していない。相手を死に追い込むだけ...」


『山菱君。
君は“精神的に問題あり”だそうだが...写真では随分と元気そうに見えるな。
君が本当に“精神的に問題あり”なのかどうなのか試そう。
君の血液中に作用の遅い毒物を入れた。
解毒剤は金庫の中だ。金庫を開ける番号は壁に書かれている。
早く開けたまえ。そして足元に注意しろ、ガラスの破片がばら撒かれている。
...ところで、君の体に引火性物質が塗ってある。
手元を照らすロウソクには十分気を付けろよ。
君の放火で死んだ人々に復讐されるかもしれん』
「壁には無数の番号が書いてあり、途中で身体に火が燃え移って焼死したようです。...そして新たな発見があります。2つほど」

鑑識係は壁に開いている小さな穴を指差した。

「ここから覗いていた者がいます。彼は被害者が狂っていくのを見るのが大好きなようです。前回も見物していましたが、今回は......ペンライトの忘れ物です」

鑑識係がパッケージされたペンライトを差し出した。

「指紋を検出しろ」
「了解です」



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