「おい、それ」

白澤は、鬼灯と白澤の間にあるテープレコーダーに気が付いて指を差した。
テープレコーダーの他に銃も置いてある。

「ぐぎぎぎ...!」
「そんな手を伸ばして取れる訳ないでしょうどう考えたって。シャツを使ったらどうです?」

白澤は着ているシャツを脱ぎ、半袖姿になってシャツを掴みながらテープレコーダーの方へ投げた。
だがテープレコーダーにシャツが被さるだけで取る事はできない。

「〜〜っ無理だ!!」
「何か使えるものがあるはずです」

白澤はしばらく考えた後、先程自分が浸かっていたバスタブからチェーンのついた栓を取り出した。
どうやら壊れていたらしくバスタブとは繋がっていなかった。
そしてシャツとチェーンを結びつけ、再びテープレコーダーの方へ投げた。
するとテープレコーダーの紐に上手い具合に引っかかり、そのまま白澤はゆっくりとシャツを引いた。
手にしたテープレコーダーに先程出てきたカセットテープを押し、カチ、と再生ボタンを押した。

『おはよう白澤くん。ここが何処だか分からないだろう。
教えてやる。
この地下室でお前は死ぬ。
お前はいつも物陰に身を潜め...他人の生活を覗いている。
だが“覗き屋”は鏡の中に何を見るか?
私に言わせれば今のお前の姿は...怒りと恐怖が混じりひたすら哀れだ。
お前は今日、自分の死を見るか...うまく逃げ出すか』

「どういう事だ...」
「テープレコーダーを私に投げてください」
「...いや、テープをこっちに投げろ」
「逃げ出すには協力しないとですよ。テープレコーダーを投げてください」
「壊れると困るだろ。テープを投げろ」

鬼灯は白澤の言う事も一理ある、と思い、一瞬躊躇ったが白澤に向かってテープを投げた。
白澤はテープを受け取り、同じようにセットして再生ボタンを押した。

『鬼灯先生。お目覚めのようだな。
毎日お前は病院で患者に向かって死を宣告している。
だが今日のお前は“死因”そのもの。
お前の目的は白澤の殺害。時間は6時まで』

鬼灯が時計を見ると針は10時半を指していた。

『ゲームに勝つ方法は方々に隠されている。
覚えておけ、“X”は宝物が眠る場所を示す印だ。
6時までに白澤を殺さないと...名前が死ぬぞ』

それを聞いた鬼灯と白澤は二人揃って顔を強張らせた。

『そしてお前もここで朽ち果てる。では、ゲーム開始だ』

テープが再生を終えると、室内は再び沈黙に包まれた。
白澤は何が何だか分からない、といった様子だ。
鬼灯は少し黙って考えた後、そんな白澤に声を掛けた。

「それを貸してください」
「は?投げたら壊れるって言ってるだろ」
「キャッチしますので上手い具合に投げて下さい」

チッと舌打ちしながら、白澤は鬼灯に向かって優しくテープレコーダーを投げた。
鬼灯は見事にそれをキャッチすると、巻き戻して再度テープを再生した。

『名前が死ぬぞ』

鬼灯は真剣な顔つきでテープを聞いている。

「嘘かも、」
「しっ」

『そしてお前もここで朽ち果てる。では、ゲーム開始だ』
『.........ハートに従え』

「ハートに従え...?」

最後の最後に聞こえた小さな声を鬼灯は繰り返して小さく呟いた。
そして室内をぐるりと見回し、ある一点にハートのマークがついているのを見つけた。

「ありましたよ、そこに」

白澤のすぐ近くにあるトイレのタンクを指差した。
タンクには泥のようなものでハートマークが描かれている。
白澤は便器の中を見て思わずうえッと吐き気を催した。
便器の中は泥水のような濁った何かで満たされている。

「早く」

急かす鬼灯をギロリ睨んだ後、白澤は意を決して便器に手を突っ込んだ。
顔を背けながら中を手探りで探すが何もそれらしき物は手に当たらない。

「っくそ!何もない!」

白澤は便器から手を出して、おえ〜と言いながら手を振った後床でなびった。

「タンクの中はどうです?」

そう言われて嫌そうな顔でタンクの蓋を開けると、黒いゴミ袋が入っていた。
そしてそのゴミ袋を掴んで鬼灯に見えるようにタンクから出した。

「...先に気付けよ」



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