落ち着いた白澤はふと思い出した。

「思い出した...捕まった時のこと...」

家に帰って写真を現像してて...気付いたら眠ってしまっていて。
ハッと起きたら真っ暗闇の中で。
スイッチを入れても電気がつかなかった。
停電かと思ってブレーカーを見に行こうとしたんだ。
そしたらリビングの方から物音が聞こえて、誰かがいる気配がした。
ライトが点かなかったからフラッシュを焚きながらリビングに向かって行ったら、前からいきなり殴られたんだ。

「前からやられたんですか。情けないですね」
「暗闇だぞ!仕方ないだろ!」

鬼灯が時計を見るともう5時半を迎えていた。
犯人の指定した時間まであと30分もない。
そこに先程箱から出てきた携帯電話が鳴り響き、鬼灯はそれを手にとって出た。

「...誰ですか?」
『っ...ひっく...鬼灯...っ?』

聞こえてきたのは声を震わせ、泣きながら鬼灯の名前を呼ぶ名前の声だった。

「名前!?」
「!」
『っ鬼灯...なの...?』
「そうです、私です...!」
『こわい、たすけてぇ...!』
「っ、今どこにいるんですか?」
『わ、かんない...!縛られてて...さっき服も脱がされて...っ...いま、何も...着てな...っ』
「......っ...誰ですか、相手は」

名前からの返答はなく、携帯からは苛立ったような声と殴るような音が聞こえてきた。

『っ......い、いた...っ』
「名前!!」
『っ〜〜.........は、白澤さん...そこに、いる...?』
「......どうして知っているんですか...?どういうことですか...?」
『白澤さん、を...っ信じないで...!』
「は...?」
『白澤さんは...前から鬼灯のこと知ってる...!』
「.........」

名前の頭に押し当てられていた銃が離され、押し付けられていた携帯電話も耳から離された。

「名前?名前!?」

鬼灯は繋がらなくなった携帯電話を怒りから床に叩きつけようとしたが、なんとか思い留まり、カメラに向かって言った。

「名前に手を出したら殺してやる...いやもう出してるに等しい...必ず殺してやる」

白澤は今まで冷静だった鬼灯がそんな言葉を吐き出すのを見て、少し引いた。
鬼灯はどかっと苛立たしげに腰を下ろした。

「名前ちゃんは無事...?」
「......名前が貴方の名前を口にしていました」
「なんて言ってたの?」
「貴方を、信じるなと...」
「.........」
「...何か隠していますね?」
「...わかってるだろ」
「とぼけるな。本当の事を言いなさい、この嘘吐きめ」
「...ははっ...僕が嘘吐き...?お前昨日の夜何してたよ?」
「.........」
「病院で病気の子でも救った?呼び出されて病院に行ったって言ってたよなぁ?」
「...そうです」
「...違うな」
「何を根拠に」
「駐車場で写真を撮られただろ?」
「.........」
「お前は病院になんて行ってない」

白澤はバスタブの中から数枚の写真を拾い上げて鬼灯に向かって投げつけた。
写真は全て鬼灯の元へ届くことなく、ばらばらに散った。

「昨夜が初めてじゃないの知ってるぞ。不安そうに言ってきた名前ちゃんに告げ口したのは僕だ。なんで名前ちゃんがお前と元カノが密会してることを知ってるのか考えたことなかったのか?」

写真には元カノと一緒にホテルに入って行く姿や、カフェで一緒にいる姿が写っていた。

「......どうして...」
「僕の仕事は依頼された対象を尾行して証拠写真を撮る事。まぁ、名前ちゃんに関してはお金は取ってないけど」
「.........」
「昨日、家から出たお前を尾行した。...安ホテルまで」

鬼灯は写真から目を離して白澤を見た。

「...写真を持ち歩いてたんですか?」
「違うよ。ノコギリと一緒に入ってた。なんでかは知らない」
「...この嘘吐き野郎め」
「ははは、お互い様じゃないの?カメラは嘘をつかない。ありのままを写す。あの安ホテルで一体何してたわけ?」
「......」
「すぐに出てきたよね」



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