13


約束のデートの日。

デートプランに散々悩んだが、結局映画を観て居酒屋に行こう、という話になった。
映画は彼女がずっと見たがっていた恋愛映画。
ガリューウエーブが主題歌を務めているらしい。
ちょっとむかつくな。
ボクの頭には映画の内容はほとんど入ってこなかった。
隣に名前ちゃんが座っているのにそれどころではない。映画館だから暗いわけだし。
彼女と肘掛けの上で手を繋ぎたいな、とか
ちょっとキスしたいな、とか
いたずらしたいな、とか
あわよくばボクのを触ってくれたりなんてしないかな、とか
そんなことばかり考えているわけで。
でもまだ付き合ってもいないし嫌われたくないから、グッと我慢して、こっそり彼女を盗み見ると。
口元をおさえて涙を浮かべていた。
あんまりにもかわいくてドキッとしたボクは、これ以上いけない妄想が膨らむ前に、目線をスクリーンに向けるのだった。





「すごい泣けましたねー…」
「そうだね…(あんまり覚えてないけど)」
「検事と弁護士の報われない恋…はああ、主題歌も素敵だったし…また観に来ようかな…」
「また観るの…?」


というか、検事と弁護士の話だったのか、アレ。


「さ、成歩堂さん。お腹空いちゃいました。美味しいお店連れてってください!」
「ふふ。じゃあ行こうか」


ん、と手を差し出すと、彼女は一瞬躊躇った後、そっと手を重ねてきた。

着いたのは、お酒が好きだと言っていた彼女のために、あらかじめ予約しておいた個室居酒屋。


「わー、すごいおしゃれなところですね!」
「ボクも初めて来たけど、綺麗なところだね」


壁面に水槽が張り巡らされ、様々な種類の熱帯魚が自由に泳いでいた。
席に案内され、飲み物を頼むと、ボクは彼女に話しかけた。


「名前ちゃん、お酒強いの?」
「へへ、好きだけど弱いんです。成歩堂さんは?」
「ボクもそんなに強くはないなあ」
「そうなんですか?強そうですけど」
「そうかい?」
「樽で飲んでそうだなって」
「それはないでしょ!」


綺麗な個室に笑い声が上がる。
彼女も楽しんでくれてるみたいで良かった。
そこに、注文していたアルコールとお通しがやってきた。
ボクは生、彼女はピーチウーロン。


「じゃあ、乾杯」


カチン、とグラスがぶつかり合った。


彼女が出来上がるのに、時間はかからなかった。
本当にお酒弱いんだな、と思った。
まだ二杯目の半ばくらいなのに、目元がとろんとして、口元も緩んで、甘えるような喋り方になってきている。
ボクとしてはあんまり酔われると、この後に響いてきてしまうから、できればその一杯を最後にしてほしいなと願う。
まあそれはボク自身にも言えることなのだが。


「にゃるほどさぁん」
「(にゃる…)なんだい?」
「きいてーひどいんですよぉ」
「どうしたの?」
「お店やめさせてくれないんですよぉー」
「え、そうなの?」
「なんかぁ、わたしナンバー1だからお店に大打撃だってぇ」
「…ふぅん。彼氏にばれたって言えば?」
「うぅーん…」
「それでダメならボクが出るとこ出るよ」
「…え、」
「うん」
「…どうして、そこまでしてくれるんですかぁ…」
「そりゃね。好きな子が他の男に触られてるって知って、気分良い男がいると思うかい?」
「えっえっ…」
「名前ちゃんは?」
「え…や…その…」
「……。そろそろ出よっか」


財布を取り出す彼女を止めて支払いを済ませると、先程と同じように手を繋ぎ、彼女のマンションの近くにある公園に入った。
ベンチに彼女を座らせて水を買ってくる。
後ろからそっと近付き、ぴと、と彼女の頬にペットボトルを当てると、ひゃっ!と高い声をあげた。


「はっはっは」
「はっはっはじゃないですよ…もう…」


ありがとうございます、と言って彼女は水を一口飲んだ。


「酔いはさめた?」
「はい。さっきよりは大分…。すみません、なんか」
「いいよ、かわいかったから」
「な、かわいくなんて…」
「いいや、かわいいよ」


ボクはそっとベンチに腰を下ろして、彼女に向き合った。


「名前ちゃんさ、真剣に聞いて欲しいことがあるんだ」
「はい」
「…好きだ。ボクと付き合ってくれないか」
「えッ!?」
「気付いてなかったとは言わせないよ。ボクは好きでもない子にキスなんてしない」
「じゅ、順序がおかしいです…」
「そうだね…ごめん」
「で、でも…わたし…なんて…、よ、汚れ、てるし…」
「どうして。素直で、優しくて、かわいくて、仕事に一生懸命で、ボクはそんな名前ちゃんだから好きになったんだよ」


彼女の顔がかあ、と赤くなった。


「ね、返事、聞かせてよ」
「わ、わたしも成歩堂さんが好きです!大好きです!成歩堂さん以外考えられません!」
「…ん、ありがとう、嬉しいよ」


ボクは彼女を抱き寄せてキスをした。


「…あの、成歩堂さん…」
「ん?」
「き、今日は…帰りたく、ないです…」
「…!」


心の中で雄叫びをあげた。
あんまりお酒飲んでなくてよかった。
飲みすぎると機能しなくなる。
死ぬほど嬉しかったので、ちょっと意地悪してみることにした。


「嬉しいけど、ボクの家はみぬきがいるからダメだよ」
「わ、わたしの家でいいですから…っ」
「…なに、そんなにしたいの?」
「わ、耳元は反則ですよ…」
「ねえ、教えてよ」
「う…」
「がまんできなかった?」
「…は、はい…」
「なんならここでしちゃう?」
「も、もう!成歩堂さんの意地悪!」
「はっはっは。ごめんごめん。じゃあ行こっか」
「うう…」


彼女はゆるゆると立ち上がり、すぐそこにあるマンションへと歩き始めた。
もちろん手は繋いだまま。



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