身体を洗い終わって湯船に浸かる。
ラブホテルのお風呂は広いところが多く、二人でも余裕で入れる。
ここはジャグジーもついているけれど、つけようとしたら成歩堂さんに阻止された。声が聞こえなくなるからやめて、と。
成歩堂さんが後ろからわたしを抱きしめた。
腰に硬いものが当たるが、意識しないようにした。
成歩堂さんはわたしを抱きしめたまま、耳元でぽつりぽつりと話し始めた。


「ね、ここ一ヶ月くらい、ボクのこと避けてるよね。どうして?」


約一ヶ月くらい前のこと。
みぬきちゃんが成歩堂さんを紹介した日から、ずっと話していない。
半月くらい前からは、それを察した成歩堂さんは、お店には来なくなった。
時々みぬきちゃんを迎えに来ても、わたしが隠れているから鉢合わせることもなかった。


「ボク、何かしたかな」
「…い、いえ。成歩堂さんは何も…」
「じゃあどうして?結構クるものがあるんだよ、あれ」
「すみません…」
「…言えない?」
「…だって、その…」


成歩堂さんは、結婚しているから。
仲良くなって奥さんに誤解されてしまっては困るから。
そんなことを言ったら、まるでわたしが「成歩堂さんを意識しています」と言っているようなものではないか。


「証言を要求しようか」
「証言?」
「ボクが元弁護士だってこと、知らなかった?」
「!?は、初耳です…」
「キミのムジュンを暴いてみせよう。暴くことができなかったらボクはもう何も言わないよ」
「…か、彼氏がいるんです…あまり他の男と仲良くするなって…」
「異議あり。矢張や他の常連客とは仲がいいのにボクだけ避けるのはおかしい」
「ううっ…!それは、その…」
「それに、キミには恋人なんていないね」
「な、失礼な!わたしにだって彼氏の一人や二人くらい…」
「キミは緊張すると手を握るという癖。自分では気付いていないね」
「えっ…」
「彼氏という単語を発する時、君はその癖が出ていた。証人、アナタは嘘をついていますね?」
「なっ…………!!」
「どうかな?」
「…ま、負けました…」


元弁護士だなんて今初めて知ったけど、その洞察力には驚いた。

わたしは思っている通りのことを成歩堂さんに伝えた。
そしたら彼は一瞬沈黙した後、わたしの肩に頭を埋めて爆笑し始めた。


「な、なんですか…」
「それ、自分で何言ってるかわかってるの?」
「わ、わかってますよ!だから言いたくなかったんです!」
「ブフフ…はあ。ボクはね、結婚なんてしてないよ」
「えっ…」
「みぬきは養女」
「えっ…えええええええ!?」
「まあ、とある事件で出会ってね。諸事情でボクが預かることになったんだ」
「どうりで年齢がおかしいなと…」
「実の子供と同じくらい大切だけどね」
「わたしの早とちり…は、恥ずかしい…」
「なんだ。よかった。ボクが何かしたのかと思ってた」
「ご…ごめんなさい…」
「ううん、いいよ。真実を知れたからね」
「はああ…」


ひたすら自分が恥ずかしい。
早とちりしてたことも、意識してることがばれてしまったことも、ひたすら恥ずかしい。

逆上せるからそろそろ出ようか、という話になってわたしたちは浴室を出た。
そして再び解れていた緊張が戻ってきた。
そうだ、仕事中だったのだ。
これからベッドに入って一仕事しなければならない。

彼をバスタオルで拭いてあげて、自分も身体を拭いた。
身体にバスタオルを巻きつけて先にベッドに入ってるはずの彼を追うと、既に着替え始めていた。


「えっ成歩堂さん?」
「ん?」
「き、着替えちゃうんですか…?」
「いいから君もほら、服着て」


そう促され、わたしは服を着始めた。
着衣プレイがしたいのだろうか。

彼はニット帽まですっぽりと被ると、わたしが着替え終わるまでベッドの淵に座ってテレビを見ていた。
わたしが着替え終わったのを見届けると、おいで、と手招きをし、ベッドに二人して寝転んだ。
成歩堂さんがこちらに身体を向けながら腕を一本出し、いわゆる腕枕をしてくれた。
筋肉質なその腕に頭を乗せると、もう片方の腕でわたしを包み、ゆっくりと割いたり時折撫でたりしてわたしの髪で遊び始めた。
頭を撫でられるのは好きだ。愛されてる感覚に陥る。
成歩堂さんはそのまま額や髪にキスをしはじめた。
成歩堂さんの服から、成歩堂さんの匂いがする。
香水をつけている方が好みの筈なのに、今はこの匂いが愛おしくてたまらない。
思わずわたしも片手を彼の背中に回した。
それが合図かのように、成歩堂さんはわたしの唇を、彼のそれでそっと塞いだ。
やさしく慈しむように唇を唇で愛撫する。
それが気持ち良くて自然と口を開くと、熱い舌がぬるりと侵入してきて、わたしもそっと舌を差し出しておずおずと絡め合わせた。
気持ちいい。ーーしたい。
そう思い始めた頃、テーブルの上にあった携帯が音を立てて震え出した。
ベッドから離れ確認すると、時間終了を知らせるアラームだった。


「あの…あとシャワータイムの10分しか…」
「ああ、わかった」
「じゅ、10分で抜きますから…!」
「はっはっは。いいよ別に」
「で、でも…」
「抜きにきたわけじゃないし」
「えっ...?」
「んーもちろん、ボクは据え膳食うタイプなんだけどね。今回ばかりは…」
「でも、我慢はよくないです」
「…なに、襲って欲しい?」
「なっ、ち、違います!」
「自分から舌出してきたくせに」
「あああれは仕事の一環で…」
「まあともかく。ボクが抱きたいのは源氏名ちゃんじゃなくて名前ちゃんだから。今はまだ抱かない」
「それってどういう…」
「残り時間はお化粧直しでもしてなよ。ボクはテレビ見てるし」

そう言って成歩堂さんはまたベッドの淵でテレビを見始めた。

わたしは彼の気持ちがよくわからなくなったが、大人しく化粧直しに専念した。



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