Winter(切原赤也)


驚いたことに
夏希ん家にはサンタクロースが来ないんだと…





綺麗なイルミネーションが輝く街の中央広場。
そこの中心にある大きなもみの木は毎年クリスマスが近くなると出される。
街に流れているメロディーに合わせて口笛を吹きながら、
俺はそのもみの木の下で夏希を待っていた。






「今頃サンタは大忙しなんだろーな」

休み時間に俺が肘をつきながらそんな事を呟くと、
夏希はあからさまに顔をしかめた。

「は?あんた何言ってんの?」

「サンタクロースの話に決まってるだろ」

「…まさか赤也、まだサンタが居ると思ってるの?」

「居るだろ!」

「居ないわよ!」

コイツも柳先輩や柳生先輩と一緒か…
あの2人にはどうも夢のある話が通じないんだよな。

「…お前ん家もサンタ来ないのか?」

「来るわけないでしょ!」

「そーだったのか…」

「もう…やっとわかってくr」

「じゃあ俺がお前のサンタになってやるよ!」

「はあ!?」






こうして今年のクリスマスは可哀想な夏希の為に、俺があいつのサンタになってやることになった。
考えてみれば夏希とデートなんかした事がなかったし、
ずっと夏希が好きだった俺にしてみれば願ってもない事だ。

(早く来ねぇかな…)

ふと、向かいに見える上り坂に目を向けると、
あいつが大きく手を振りながら坂道を駆けていた。

「あーかーやーっ!!!」

ロングコートに茶色のブーツ、白いニット帽がよく似合っていた。
負けじと俺も手を振り返す。

「ごめんごめん、待った?」

「いや、今来たとこ」

「よかったぁ。…それで、赤也サンタはどこに連れてってくれるのかな?」

悪戯っぽく笑って尋ねるコイツを俺は危うく抱きしめそうになったが、
必死にこらえて手を握った。

「…何?」

「ん?」

「だから、何これ?」

そう言って反対の手で俺に強く握られている手を指差した。

「何これって、握ってんだけど」

「見ればわかる。そうじゃなくて何で握ってんの?」

「サンタはプレゼントを渡す子どもの手を握って街中を歩き回るんだってよ!」

「…そうだっけ?」

「ああ!」

「…まぁ…いっか!」

少し頬を染めながら笑顔で言う夏希がたまらなく可愛くて、
どうにも我慢出来なくて、
俺はその腕を引き寄せて抱き締めた。

「サンタさんはプレゼントを渡す子どもを抱き締めもするの?」

「ああ…」

「…変態」

「な、なんだと!」

「…でも、赤也サンタだったら許す」

「……」

最初は言ってる意味が分からなくて、
だけど、段々その意味が分かってきたら舞い上がってしまうわけで、

「…えっ?えー!?マジか!?」

「私嘘言わない主義」

「やっべぇー…」

どうしたらいいのか分かんなくて頭をガーっと掻いた。
その様子を見ていた夏希がフフッと笑う姿を見たら、
夏希の想いが本当なんだと実感してきた。

「「……」」

ふと、目が合い束の間の沈黙。
嫌な感じなど全く無く、俺達はそのまま見つめ合うと
どちらからともなく笑った。

「…行くか!」

指を絡めて手を握れば、夏希はコクリと頷いた。

この時間を一秒でも無駄にしたくなくて、俺は夏希の手を引いて駆け出す。
地面に綺麗に積もった雪は俺達に蹴散らされて舞っては、また地面に戻っていった。

あ、言うの忘れてたな…後でちゃんと言ってやろう



「メリークリスマス 夏希!」



ってさ。



*END*

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