寝癖(丸井ブン太)



とある朝。

「空!なんか食いもんないか?」

「んーちょっと待って」

「…ん?おまえ何で手で髪の毛押さえてんだ?」

「別に何でもない!」

そう言って私は机に顔をうずめた。

「なーに隠してんだよ。別に俺が見ても良いだろぃ?」

ブン太はそう言ってニヤリと笑うと、私の手を無理やり引っ張った。

「ちょっ!何するn」

ピョンと、私の手が離れると髪の毛は大きく外に跳ねた。

「「……」」

嫌な沈黙が流れる。

「…ブッ…アハハハハハ!!なんだそりゃ!ひっでー寝癖!!」

ブン太は右手で私に向かって指を差し、左手でお腹を抱えて大声で笑いだした。
ブン太だけには絶対見られまいと隠してたのにまさか朝一でバレるなんて。

「…だって…」

あまりのショックに涙が出そうだった。
そんな私の様子を見て、ブン太は急に慌てだした。

「わっ、悪い悪い…笑いすぎちまった」

「…別に…私の寝癖がいけないんだもんね…」

私のすねた返事に、ブン太は困った顔をしてこめかみをかいている。

「はぁ〜…ったく。ほら、こっち向け」

「いや!どうせまた笑うんでしょ…っひゃあ!」

ブン太は私の声を無視し、私の両肩を掴むとグイッとブン太に顔を向けさせた。

「ちょっ!?」

ブン太の綺麗な瞳はまっすぐ私を見ている。
心臓がバクバクして苦しかった。

「いいか、顔を真っ直ぐしとけよ!」

そう言ってブン太は制服のポケットから小さい入れ物を取り出した。
慣れた手つきで入れ物の中のクリームを手のひらに広げ、私の髪に触れた。

「っ!!」

ブン太の手が軽く耳に当たるだけで、私の心臓は破裂しそうだった。
私がひとり緊張している間に、ブン太はあっさりと寝癖を直してしまった。

「うん。可愛えぇ可愛えぇ♪」

私の前髪の毛先をツンと引っ張って、満足そうにブン太が言った。
何でこうも女子が喜ぶ台詞をサラッと言えるんだろう。

「俺のお気に入りのワックスで直してやったから完璧だぜぃ☆」

「…ありがとう!」

照れくさかったけど、持っていたキャンディを手渡してお礼を言った。

「サンキュー☆」

美味しそうにキャンディーを食べているブン太を見ながら、
明日から毎日寝癖をつけてこようかと考えた自分が居た。



*END*

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