君と僕とエトセトラ


((悔しいとか思ってません。))





―入学おめでとう!
―ありがとう。
―で、何処の高校へ入学したの?
―…ナイショ、
―な、ナイショって…入学したら教えるって言ったじゃない!
―…
―…?
―今度制服で会いに行くよ
―えー!
―ねぇ、
―うん?
―僕も高校生になった訳だけど
―うん、そうだね
―"アレ"解禁て事で良いんだよね?
―アレ?
―付き合ってるの、言っても良いんだよね
―う…
―…僕モテるんだよね、名前と違って
―う、うう
―中学の間、ちゃんと言いつけ守ったデショ
―う、うーん
―だからもう、
―私にどこの高校か教えたら、良いよ
―は?
―ねぇ、何処に入学したの?
―……もういい
―えっ
―じゃあね
―え、ちょっと!?



ブチリと切られた通話。
受話器からはツーツーと虚しい音だけが聞こえた。


『拗ねちゃった…』















『生徒会の受理印の無い部活勧誘ポスターは問答無用ではぎ取ります!』
『そっ、そんなぁ!』
『そんなじゃありません!新学期初めの部活集会で説明があったはずです!』

喚く生徒を無視して掲示板から剥ぎ取る。
もう何件目か分からないから少し手荒になってしまって申し訳無いですが。


『きちんと提出すれば、生徒会だって拒否しませんよ』

ソレが例え新しい部活動でもです。
そう言えば彼は渋々でも納得してくれたらしく、ポスターを作り直して再提出すると戻っていった。
て、言うか…!

『ちょっ!あの上のポスター剥がしてって下さいよ!』


掲示板の上の方に貼られたポスター。
私は背が………高くない方なので…上は届きそうに無い(悔しいけれど)
仕方がない、踏み台を持ってこようと踵を返すと、後ろに立っていた人にぶつかってしまった。
衝撃があったけれど、相手がおっと、と軽く肩を支えてくれて倒れずに済んだ。


『す、すみません…』
『忙しそうだなー、名字』
『菅原君!』

頭を下げると、上から聞き慣れた声が!良かった知ってる人で!
にっと笑ってお疲れ様と言われると、私の疲れも吹っ飛びます!


『どうしてここに?』
『購買の帰り。名字の声がしたからさー』
『あう…つい大きくなってしまうのです…』

恥ずかしい。顔に熱が差します。
菅原君は掲示板を見て、これ取るの?と訊ね背伸びもせずにポスターを剥がしてしまいました。
悔しいけれど…かっこいい。


『ありがとうございます…』
『ちょっと、何で拗ねるの!』
『悔しいとか思ってません』


そう唇を尖らせると、ぷって笑われてしまいました。
笑うこと無いじゃないですか。


『あ、でさ、名字今日部活来れる?』
『行けるように最善を尽くしているつもりですが、何分新学期で忙しく…』
『そっか、生徒会今一番忙しいもんなー』
『菅原くん達や潔子には申し訳ないですが、』
『え?あ、うんそれは大丈夫だよ。まだ新入部員が入ってきた訳じゃ無いし』
『えっ!バレー部まさか…!?』
『へ!?あ、違う!新入部員は居るから安心していい!』
『よ、よかった…』

私がほっと胸を撫で下ろすと、菅原君は珍しく目を逸らして言いにくそうに声のボリュームを下げた。


『それが、ちょーっと…面倒な事になってて』
『面倒?』
『明日試合するんだよ』
『試合、ですか…』
『入部試験の試合、って言うか…』
『澤村君路線変えたんです?』
『って、言うか…』
『はい?』

ちょっと菅原君、目が泳いでますけど。
声に出すのも憚られるのか、ほぼ口パクでソレを私に伝えてきた。


『(きょうとう、の、づらを、ふっと、ば…し…)』


―――――ぷごふっ
吹き出し笑い、とは正にこの事。
教頭先生のカツラを、ボールをぶつけてぶっ飛ばした一年生がいる、と。
それで試合ですか。澤村君も思い切ったものです。

『わ、笑いすぎだぞ名字』
『だ、だって…!私もそれ見たかった…!!』
『だ、大地には絶対言うなよ…』
『りょーかいです』

ひとしきり笑った後涙を拭いて、その試合の日を訊ねる。
明日だよ、少し疲れた様子で菅原君が言った。

『明日ですか。じゃあ明日は絶対行きます!』
『おう、名字が来ると田中もやる気二倍だべ』


にしし。
白い歯を見せて笑う菅原君はホント、我が部の癒しです!







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『所で、佐藤よ』
『え、何…菅原…顔怖いんだけど』
『お前名字が取れない様にわざと高い場所にポスター貼っただろ』
『うっ』
『…やっぱり』
『だ、だってさ…名字さん小さくて可愛いから!つい!つい!』
『それ本人に言うなよ?アイツ怒ると誰も手付けられないから』
『えっ』





20140516



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