君と僕とエトセトラ


((お付き合いしている人が、))






―もしもーし
―…
―無言!
―…何か用?
―用と言うか
―?
―とりあえず謝っとこうと思って。
―は?
―ごめん
―それは何に対する謝罪なワケ?
―てへっ
―…(イラッ)
―じゃあね!いつ会えるかまた連絡ちょうだい!
―ちょっと?
―制服姿、楽しみにしてる




『何ソレ腹立つ…』










『名字さんの事が好きだ!だから俺と付き合って下さい!』

校舎裏へ呼び出されてリンチでも受けるのかと身構えていたら、そう叫ぶように言われた。
何だか今月に入って妙に多い。


『ごめんなさい…お気持ちはすごく嬉しいのですが、』


断るのにも次第に馴れてきた頃、告白して来た彼が、ばっと頭を上げて私をまっすぐ見た。

『あのっ』
『はっ、はい、』
『断る理由が、俺のこと知らないからとかだったら、お友達からとかじゃだめですか!』

あ…。
馴れてきた、だなんて。
私はとても失礼な人間です。彼はこんなにも真剣なのに。

『そうじゃありません、』
『えっ』
『わ、私…お付き合いしている人が、その…いるのです…』


言ってしまった。














『スガだろ』
『俺は澤村に一票』
『私は菅原君派かなー』
『東峰の可能性』
『『『『それは無い』』』』
『俺は澤村だな』
『菅原』
『菅原』
『澤村』


『何の騒ぎだこれ』
『さあ?』


朝練終わりに教室へ行くと、なにやらどのクラスもざわついていて、俺と大地が到着するや否やみんなの視線を一斉に浴びた。
俺派大地派って、何の事だろうか。

状況が飲み込めず俺たちが固まっていると、ゴクリ、と教室内の空気も緊張で張りつめた。
男子一人が前に出て、俺たち二人に近づいてきて。


『澤村、菅原、』
『お、おう?』
『何の騒ぎだ一体…』
『お前達のどっちかだと話は持ちきりだ』
『何が?』
『正直に答えろ』
『何だよ、』


『名字ちゃんとお付き合いしている幸せな野郎はどっちですかコノヤロー!!』


『『…は?』』
『えっ大地!マジで!?
 スガ何で黙ってたんだ!』
『『…えっ?』』


俺たちはお互いを見る。
本当に驚いた顔をしているから、大地は嘘を吐いていない。


『えっ、澤村君か菅原君じゃないの?』


女子の一人が小さく呟いた。


『ち、違うし!』
『て言うか、何で俺たちって二択だよ』
『東峰は無いと思って』
『『ああ、うんそれは無い』』
『つーか名字に彼氏とかどっから出た情報だよー』
『そうだぞ。本人が居ない所で適当な事を言うのは…』
『昨日…誰だっけ、ああそう齋藤?が告ったんだってよ?』
『本人が言ったんだって。二年くらい付き合ってる彼氏が居るって』


だから俺たち、澤村か菅原のどっちかだって思ったんだけどね。
お前達同じ部活で仲良いし。

俺たちはお互いを見る。
うん、多分。
その"彼氏"とやらが居るとしたら、俺たちじゃない誰かだ。


『まさか…』
『大穴で東峰…?』
『は、犯罪じゃねーか!!』
『犯罪だな』
『いや東峰君も同級生だから…』
『あれは彼氏じゃなくてお父さんだろ!』
『ちっげーよ親戚の叔父さんだよ!いつもお菓子とかお小遣いくれる系の!』



よし!東峰のクラスに行くぞと走り出した奴らは放っておくとして、俺達は一つ、ため息を吐いた。



『二年も、黙ってたのか』
『そうだな』
『誰だろ』
『さあ…』


なんだろう、この言いしれぬ脱力感は。








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娘に彼氏が居たって知った時の父親の心境に似た何か。



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