君と僕とエトセトラ


((…!!…蛍のバカ!嫌い!))








『俺には、無理だよ』


東峰くんは、悲しそうに笑ってそう言いました。



ノヤ君も部活来てますよ。
一年生も、入りましたし。
あの、ええっと。

可笑しいな、もっと沢山伝えたい事があったのに。
東峰君、ねぇ東峰君?


『バレー、嫌いになっちゃったんですか?』
『…、』


―ねぇ、…君。
―…君はバレー、嫌いになっちゃったの?


『私は東峰君のバレー、また見たいです。』
『名字…』



―私、…君のバレーまだ見てたいよ…。



((ああ、嫌だ。))
((私はまた傷つけてしまった。))

ごめん。
それだけ言うと、東峰君は優しい笑みで私の頭を撫でて行った。







『ううう』
『どうしたんだ、名字』
『東峰君がバレー部に戻ってこなかったら私の所為です…』
『はあ?』
『私はまた、無責任に自分の感情を…っううう!』

体育館の隅っこでうずくまっていると、心配した澤村君がやってきて隣に腰掛けました。
どうやら日向君と影山君が丁度来た澤村君に事情を(体育館に来るなりこうだと)伝えたらしく、また、私の口から東峰君の名前が出たので少し戸惑っているようです。


『澤村君っ』
『うぉ!』
『私を!一発叩いてくださいっ!』
『どうしたんだいきなり!?』
『澤村君がやりにくいなら!影山君!』
『はい!?』
『何ですか?』
『私を殴ってください!手加減は要りません!』
『落ち着け名字!!』
『止めろ影山!月島に殺されるぞ!』
『っせーな!殴るわけ無いだろ!』


いっそひと思いに殺っちゃってくれたらよかったです。
鼻をすすったら大きなため息を吐いた澤村君が私の頭をぐーでコツリと叩きました。
そして苦笑いしてこう言ったのです。

『さっき東峰来てた』
『えっ』
『もう帰ったけど…』


多分アイツも、思う事が有るんだと思う。
澤村君はそう笑いました。


『ヘタレだからな、アイツ』
『…』
『名字がさ、東峰に何言ったか知らないけど。アイツは好きだよ、バレー』
『…え、』
『きっと、まだ…好きだ』

頭を撫でられたら、不覚にも泣いてしまいそうになりました。



東峰君、東峰君…。
私は君のバレーが好きだよ。












『名字ー』
『あ、東峰君…』
『良かった、帰っちゃったかと思った』

校門で蛍を待っていたら、制服に着替えた東峰君がやってきた。

町内会の皆さんとの試合が終わって無事、ノヤ君も東峰君もバレー部に復帰した。
澤村君が言うように、東峰君はバレーが大好きで。私が心配する事なんて、何も無くて。


『東峰君、』
『うん?』
『すみませんでした』
『えっ』

頭を下げると東峰君は何が?名字頭を上げて、と慌てた声を出すのでゆっくりと顔を上げて東峰君を見上げる。


『今日、私…無責任に、東峰君の気持ちも考えずにあんな押し付けがましく…』
『えっ、えぇっと』
『何なら、一発!どうぞ!』
『殴らないよ!?何で名字そーゆートコ男らしいの!?』

もー、と私の頭を撫でながら呆れる東峰君。
大きな手のひら。
目の奥が、じんわり温かい。

『嬉しかった』
『え?』
『俺も、もっとバレーしたい』
『あずまね、くん…っ』
『嫌いになれるわけ無いんだ。どんな壁にぶつかったって…』
『え…』
『だから今も、バレーしてる』

なっ、て。笑う東峰君は。
きっと"彼"の事はしらない。
私が、ずっと欲しかった言葉を…貰った気がした。



『う、うぇ…!』
『えっ!何で泣くの!?ごめん!?』
『ち、ちが…っおかえりなさいっあずまねぐん゙…!』
『名字…』
『うううっ』
『な、泣かないで名字!ありがとう!俺もっと頑張るから泣かないで名字大地達来ちゃう!!』
『ぶぇえ…!』
『へなちょこ何やってん…だ、コラ』
『ひぃっ!』
『ちょ!東峰!何名字泣かしてんの!?』
『違う!いや、ちがくないけど!違う!』
『う、ぐすっ』
『あわわ、す、スガ助けて』
『これは俺じゃなくて…おーい月島ー!』


菅原君がこちらへ来る蛍を見つけて手招きます。
東峰君はきょとんとして私と菅原君と蛍を順番に見て。
え?と、だけ声に出しました。


『え、何泣いてるの…』
『東峰が泣かせた』
『はぁ、』
『菅原君っ子供扱いしないでくださいっ』
『鼻水出てるよ、名前』
『出てない!』

ほらタオル、と蛍のタオルで目尻と鼻を拭かれ(鼻水は出てませんから拭くフリだけです)、ムスリとむすくれたらぷっと蛍が噴き出して笑った。

『子供みたい』
『…!!…蛍のバカ!嫌い!』
『はいはい。すみません怒らせちゃったのでお先します』
『おう』
『おつかれー』
『お疲れさまです』


澤村君と菅原君、東峰君に挨拶をして蛍は私に付いてくる。
からかうように待ってよーなんて言うから、ばかって言ったら嫌いは訂正しなよねって凄まれて、何度も頷いた。


…今度から"嫌い"だけは冗談でも言わないようにしよう。





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『…口開いてんぞへなちょこ』
『へっ!?』
『まぁ、誰でも始めは驚くよな…』
『け、蛍って…名前で、タメ口で、あれ一年で』
『言いたいことは分かるが日本語話せ』




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