私はあるよ、下心。 →三年主/マネージャー 『たーけちゃんっ鍵持って来ましたよっと!』 『えっあ、ひゃい!』 もう日もとっぷりと暮れた部活後。 部誌と鍵当番の私は薄暗い職員室の扉をがらりと開けて、顧問の武田先生に向けて呼びかけると余程驚いたのか変な声を出して勢いよく立ち上がった。 あ。と私に気付いた先生は、顔を赤くして。 『名字さん…か、』 『何今の!武ちゃん超可愛い!』 『こら、大の大人に可愛いとは何ですか』 『否定出来ますかぁー?』 腕を組む先生に、ニシシ…とイタズラに笑って見せたら、先生も笑った。 武田先生のこう言うところ、私すごく好きだ。 『集中してたみたいですけど、何してたんですか?』 『ああ、少しお勉強を…』 『…!』 そう言って見せられたのはバレーHOW TOの本。付箋がいっぱい付いてて、中を見せてもらったらメモがビッシリと書かれていた。 私は思わずため息が漏れる。 『はー…なにこれすごい…っ』 『こうでもしないと覚えきれそうになくて…』 『先生って、本当に勉強熱心なんですね…』 ぱらぱらと捲ると、菅原や澤村に教えて貰ったルールから、烏養さんに言われた事とか猫又監督に言われたらしき事まで。 色んな人のアドバイスとか書き込んであった。 先生は経験が無いからって苦笑いして言うけど…私はすごく、烏野バレー部の奴らが羨ましい。 『私も潔子に誘われてバレー部マネ始めたから、そんな詳しくも無いんだけど…』 『名字さん…?』 『中学の頃、テニス部だったんですよね。私…』 『はい、』 突然話し出した私の話を、先生は黙って聞いてくれる。 『私が入った年から、顧問が未経験者の先生になって、』 『はい、』 『初めは何となくでも、ボール出しとかしてくれていたんですけど…その内飽きたのか理由付けて来なくなったんですよ』 『え…』 男子は別に経験有る先生が担当で。 指導したり土日は練習試合組んだり。 私達はそれを見ているだけで。 『自分達なりに練習は一生懸命したんですけどね!毎日が楽しかったし、』 『名字さん…』 『けど、次の年もその次の年も顧問は変わらなくて。私達が三年になって初めて知ったんですけど…』 『?』 『その先生、バレー経験者だったらしくて毎日バレー部に行ってたんだって!』 体育館とテニスコートは離れてるから、私達テニス部は全然気が付かなくて。 笑っちゃうよね! そう言ったら、頭に、ぽんって。 大きな手のひらが乗っかった。 『え、たけちゃ』 『笑えません!』 『え、ぇえ…!?』 ずびっ、鼻をすする音がしてギョッとした。 まさか先生泣いちゃってる!? 今ので泣いちゃうの!? 『名字さん達が健気にがんばる姿を想像したら、僕は…!』 『たけちゃ…』 『そうだ…!今からその先生に説教してきます!』 『ぅえ!?どうしてそうなった!落ち着いて!?』 場所も誰かも分からない癖に、本当に行こうとするからビックリした。 少なくとも三年は前の話だし、そもそも私のでっち上げた話かもしれないのに!(いや実話ですけども!) 『だ、だから!先生みたいな人と出会えて本当によかったなって話をしたかったんですって!!』 『…』 私が、潔子に誘われてバレー部に居る理由の一つがそれだ。 先生を見ていたら、私も報われる気がしたんだ。 『名字さんっ』 『は、はいっ』 『僕もっと頑張りますから…っ!』 これ以上頑張らなくても、今充分すぎるくらい頑張ってると思いますけど。 先生と居ると、私も素直な気持ちになれるから…不思議。 『ありがとう、武田先生』 『…!』 お礼を言うと先生はかぁっと真っ赤になった。 じゃあ私帰りますねと鍵と部誌を渡す。 先生ははっとして受け取ったソレを片付けて身支度をしだした。 『お、送ります!』 『えっ大丈夫ですよ?』 『いえ!外も暗いから…!女の子を一人で帰すわけには!』 律儀だなぁ。 下心とか無いんだろうなーって、ちょっと下心が有る私は苦笑いした。 end 武田先生可愛すぎて息が出来ない。 20140509犬猫 話、実話なんです信じられますか(笑) prev / next
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