ひどくてずるくていとしいの。





▼北一出身青城3年/及川幼馴染み/年上







名前さんはひどい人だ。



「なぁに影山、今忙しいんだけどー」
『月曜はオフなんじゃないですか?』
「…知ってたんだ?」
『及川さんに聞きました』
「影山部活は?」
『今日はオフです』
「え!ほんと!?じゃあ影山が付き合ってくれる?」
『何にですか?』
「買い物」
『…いいっすけど…』

愛しい彼女はやったぁデートじゃんと可愛らしく喜んで、じゃぁ待ち合わせはと嬉しそうに場所を指定した後、電話は繋がったまま向こう側で声を張り上げた。


「とおるー!やっぱ今日いいー!」
「えー!なんで!久々のデートなのに!?」
「本命が相手してくれるからもう良い」
「ヒドーッ!!名前ちゃん酷いよ!!」
「うるさい」

電話の向こう側には、どうやら及川さんが居るらしい。
…実に楽しそうな会話が聞こえる。

名前さんはそのまま、また後でねと笑って電話を切った。








――名前さんはずるい人だ。

恋とか愛とか、良く解らない俺に
「嫉妬」と言う形でそれを自覚させる。



学校が違う
学年が違う
家も遠くて

幼馴染みの及川さんとはすべてが真逆で…。


けど、だけど。
そんな俺を好きだと言うんだ。







『とっびおー!』
『!』
『わー久々!また背伸びたんじゃない?』
『そうっす、か…?』

待ち合わせ場所で5分くらい待ってると、走ってきた名前さんが胸、つうか腹に飛び込んできた。
相変わらずスキンシップすごい。

『飛雄、学ラン似合うよねーかっこいい!』
『え、と…』
『照れるな照れるなー!可愛いぞっ』
『かっこいいんすか、かわいいんすか』


背伸びして、俺の頭を撫でる名前さん。むしろ名前さんの方ですよ、かわいいのは。
恥ずかしいから少し小さめの声で言うと、名前さんにはバッチリ聞こえたらしく顔を赤くしてまた俺の胸に顔を埋めた。


『名前さん…?』
『もー、飛雄のばかっ』
『えっ』
『私、これでも我慢してるのよ…?』
『?』

ぎゅう、
名前さんの腕に力がこもる。
何をですか、そう訊ねれば少し不機嫌そうに顔を上げて俺を睨んだ。


『もっと飛雄と一緒に居たいのに』
『っ!』
『飛雄青城に来ないし…』
『う、』
『名前さんがどれだけ飛雄と一緒に学生生活を送りたかったと思ってるの?ん?』
『…だからって及川さんと買い物とか行かないで下さいよ』
『なんで?』
『し、心配だからです!』


がしりっ
俺も名前さんの背中に腕を回し力を込める。
名前さんが黙ってしまって暫く二人で抱きしめ合ってたら、ふふ、と彼女が笑った。


『良かったー』
『何がですか』
『え?だってほら、飛雄あんまり嫉妬とかしてくれないからさー?』

それはアンタの方だろ。
喉まで出掛けた言葉をそのまま飲み込む。
我慢して眉間に皺が寄ったのが自分でも分かった。


『でも、徹に嫉妬しちゃダメだよー』
『…しますよ』
『仲良しだからキリ無いと思うけどなぁ』



どうやら俺は、一生この呪縛からは逃れられないらしい。
彼女はふふ、と柔らかく笑ってじゃあ買い物行こうかと俺の腕に抱きついた。




end






飛雄が一生嫉妬させられる泥沼と言うかむしろ底なし沼と言うかむしろ呪い。


因みに二人の時だけ名前呼びされててどきどきまぎまぎしてるとびおうぶい。




犬猫。


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