ぼくと、おれと。そのに。




→ぼくと、おれと。の続きです。





『もーぉいっぽぉんっ!』

体育館に、木兎さんの声が響く。

言われた通りもう一度トスを上げると、ふわりとあがったボールは木兎さんの手により向こう側のコートへ叩き込まれて。

よっしゃーと喜ぶその兄を眺めながら、妹は呟いた。


『ねえ、まだやるの?』











『よっし、赤葦!もう一本!』
『えーっ!まだやるの!?』
『何だよ名前、兄ちゃんかっこいいだろ!?』
『カッコイイケドー』
『もうみんな帰りましたしね…』
『!』

飽きてきた名前は早く帰りたそうで、俺が体育館に誰も居ないことを確認しながらそう言うと、少し嬉しそうに頷いた。
そろそろ体育館を締める時間も来ている。ホント木兎さんに付き合うと大変だ(嫌ではないけれど)。


『じゃあ後15分な!』
『…じゅうごふん…』

どうやら俺は後15分、トスを上げなければならないらしい。
名前ははぁーと長いため息を吐いてぺたりと床に寝て、近くに有った木兎さんのジャージを引き寄せて枕にした。
…お互いこの人の性格は分かり切っている。
そう。
諦めて付き合う、これが正解だ。



どれくらい経ったのだろうか、警備の人に締めるよ?と言われて気付いた。
いい加減にしないと先生達に怒られてしまう。
名前が静かだなと思ったらいつの間にか寝てしまった様で、先に片付けてから彼女の元へ。
木兎さんが名前を見下ろして真面目な顔で言った。

『天使かと思ったら名前だった!』
『なに言ってんですかアンタ』
『赤葦!見てみろこの天使の寝顔を!あいややっぱ見るな汚れる!!』
『…体育館閉まりますよ』

面倒なので放っておこう。
早く起こして下さいととりあえず鞄を取りに部室へと向かい、木兎さんの鞄も持って戻るとまだ寝顔を眺めていた。
いい加減にして欲しい。

『木兎さん…』
『名前が可愛くて…俺には起こせないっ!』
『あーもう、名前起きて。帰るよ』
『お前は鬼か!』

仕方がないので俺が声を掛ければ、木兎さんが喚きだした。
アンタ、見ようと思えば家でいつでも見れるでしょうが(ちょっと羨ましい)。
名前の肩を揺すると、彼女はうっすらと目を開けてその瞳に俺を映した。
帰るよともう一度言うと、寝ぼけて居るのかにへらと笑って。

『けぇじ…』
『…、名前…ほら帰、』
『けぇじ、おはようのちゅうしてくれなきゃやだー…』
『…!?』

あろう事かそのまま俺にきゅっと抱きついて、更にとろりと溶けそうな目で俺を捕らえたあと、かぷりと唇に噛みついた。
あ、やばい。
ごきゅ、とのどが鳴る。
唇は閉じたままだから深くはならないけど、名前は俺がいつもするように唇を啄んで。

俺は脳みそが一旦フリーズ。

俺達は付き合っている。
だからこの行為はなんら問題ない。
ただ、木兎さんは知らない。気付かないのもあったけど何より溺愛する妹の名前に"彼氏"が出来てあろう事かそれが俺であると知ったら…まぁ、色々と面倒くさい。
想像だけで面倒くさい。
だからとりあえず黙っていた。
黙っていた、のに。


『ん…?けーじ、くち、あけてよ』
『…名前』
『ん…』
『木兎さん見てる』


名前が一度唇を離してもう一回と今度は受け身になったので、とりあえず俺は寝ぼけてる名前を起こすべく現状を伝えると、一気に頭が覚めたらしく…。

『おっ、お兄ちゃん何で居るの!えっち!!』
『えっ、え、えっちとは何だ!』
『けっ、京治も早く言ってよ!』
『生憎、口を塞がれてたので』
『ばばばばかっ』


べちんと頭を叩かれた。
何て理不尽。


『赤葦クン…』
『はい、』

普段とは違う低い声に、俺は木兎さんを見ることが出来ない。


『今のは何かね?』
『…接吻ですね』
『節分?どんな誤魔化し方だ』
『なんか色々とすみませんでした』

すごい横から威圧されてる。
名前がお兄ちゃん節分じゃなくて接吻、キスの事だよっていらない説明を入れた。
ちょっと黙ってて欲しい。



『あーかーあーしー!』
『お兄ちゃん何を怒ってるわけ?私たち付き合ってるんだから良いじゃない』
『つきあ…!?は、初耳ですけど!?』
『あー…』
『あ、あかあしくん…?』
『ええとですね、』


どう説明しようか。
と言うか俺が言っても聞き入れてもらえるか分からない。
普段色んな事にアッサリしてる分、妹の名前に関しては執着を見せるというか。
溺愛してるからな、この人。

俺が唸っていると、しびれを切らした名前が口を開いた。

『お兄ちゃん、』
『何だ』
『京治以上にお兄ちゃんを理解して、』
『おう』
『私を甘えさせてくれる人が居ると思う?』
『いない!』
『そういう事よ!』
『どう言うことだ!』
『私は今幸せって事!』
『そ、そうか!!』
『…』


どうやら、木兎兄妹は話が纏まったらしかった。
次の日、その話をしたらみんなに祝福されたと同時に暫く爆笑されてしまった。

とりあえず俺は木兎さんが気落ちしなかった事を喜んでおくか。






end





20140620

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