6話



※ちょっと弱い浪川。注意。




人は誰しも、誰か・何かの"特別"になりたいのかもしれない。




『普通に生きるのが嫌だった』
『なぜ?』
『男なら、名誉を欲するのが当たり前なんだぜ名前さん』


言葉とは対して、やる気の無い声はその"名誉"と言うものを取り損ねたからか。
彼・浪川蓮助にとってその"名誉"と言うのがどれ程の価値があるものなのかは知らないが、彼曰く"普通"を脱ぎ捨てるチャンスだったらしい。

『シードで海王学園のキャプテンで、化身も出せて…言うことねーだろ、』
『うん、』
『勝ってたら、さ…』
『…うん、』

ずるりと凭れてきた蓮助を受け止めて頭を撫でる。


全員シードで化身持ちが一番多い海王学園が、雷門に負けて暫く経つ。
みんな悔しかったのは同じ何だけれど、いつも一番に引っ張って走っていくキャプテンの蓮助が、今はこうして落ち込んだままだった。


『七雄人が心配してたよ。蓮助が「野郎共いくぞ!」って言わないって』
『…今の俺に海王の奴らの前に立つ資格無い』
『なぜ?』
『なぜ、って…』

蓮助は俺に言わせるのかよと言いたげに眉を顰める。

『負けたから?』

訊ねれば、ふてくされた様にして私に抱きついてきた。

『名前さんは訊いてばかりだ』
『蓮助の気持ちを聞きたいの。決めつけるのは簡単だわ』
『…うん、』
『蓮助はどうしたい?サッカー辞めたい?』
『や…!?サッカーは辞めねぇよ!』
『うん、それで?』
『それで…』

顔を上げた蓮助は私の目を見て。


『サッカーは好きだ』
『うん、』
『これからもずっとしたい』
『うん、』
『今までの事も、後悔なんて無い』
『…うん、』
『アイツ等や、名前さんに出会えたから…』
『うん、それで』
『それで…』
『過去は過去。問題はこれからよ』
『これから…』
『蓮助はどこでサッカーするの?』

サッカーは一人じゃ出来ないのよと言えば、泣きそうに、瞳を歪めた。


『アイツ等と、したい…』
『…、』
『海王のみんなと、サッカーしてぇ…!』
『うん、良く言った』

きっとね、みんな蓮助を待ってるよ。
今の海王キャプテンは浪川蓮助しかいないんだから。
蓮助が求めてる"名誉"って、こういう事じゃないかな?


『さて、浪川キャプテンが元気になったので、復帰祝いと行きますか』
『え、』
『なーんてね、お腹空かない?』
『…なんだよ、期待した』
『ごめんねー』

おどけてみせれば蓮助も笑った。
もう、大丈夫みたいだね。

『ラーメン好き?』
『好き、だけど…』
『そっか、良かった。みんな待ってるから行こ』
『え、みんなって…、』
『ほら、蓮助』


海王のみんなはもう集まってるのと言えば、ちょっと嬉しそうにして、そしてちょっと戸惑って。
悩んでいたことを恥ずかしいと思っているんだろうか。

『蓮助、』
『名前さん…あのさ、』
『うん?』
『アイツ等、呆れてねーかな』
『え…?』
『怒って、ねーかな…』
『蓮助…』


こんな弱気な彼を初めて見た。
今まで一生懸命してきた分、負けた事でその切羽詰まった気持ちが抜け落ちたと言うか。
やっぱりまだ中学生。
溢れた感情はポロポロとこぼれていくようで。


『何で怒るの、みんな蓮助が頑張ってた事知ってるわ』
『…』
『じゃあ聞くけど、七雄人や岬達が頑張ってた事、蓮助は知ってる?』
『そんなの当たり前だろ!』

言って、あ、と口を閉ざした。
送り込まれたシード達とは違い、この子達は元々チームだった子達が殆どだ。
付き合いが長い分、分かり合っている筈。
お互い、ね。


『分かった?』
『あぁ…』
『そう、』
『あのさ、』
『ん?』


手を繋いで歩き出す。
蓮助が少し恥ずかしそうにしながら何か言いたげだったので、なぁに?と訊ねればぐい、と引っ張られて耳元で。


『ありがとう、名前』

低い声が鼓膜を揺らしていく。
それが蓮助の声で耳元で囁かれたんだって気付くのにちょっとかかって、背中がゾクリとして漸く理解した。
ニヤリとしたり顔の蓮助に顔がどんどん赤くなっていくのが分かる。
こ、このやろう…!


『名前さん真っ赤だな』
『び、びっくりしたのよ。蓮助、いつの間に声変わりしたの?』
『さー?忘れた。そーそー喉仏も出てきたんだぜ』
『ほ、ほんとだ…』
『背もすげぇ伸びてる…名前さんなんてすぐ追い越しちまうから』

なんか寂しいなと思いながらうん、って頷いていたら、だから、と手を強く握られた。
いつの間にか手も骨張っていて私より、大き…、


『それまで、隣空けて待ってて』
『…え…?』
『今度は、俺が隣で名前を守るから』

凛とした瞳は、揺るぐことなく私をとらえていた。
ねぇ、蓮助それって…どう言、う…?








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(子供の癖に、生意気…)
(でも、)
(どきどきするくらい)
(格好良かった)



浪川は勢いが有った分、凹みそう。
浪川は責任感が強い分、落ち込みそう。
…と、言う妄想から。
キャラ違いすぎてスマッセン。

7/7

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