2話










彼女は優しかった。
誰より何より優しかった。

あの"島"の中で唯一心が安らぐ…そんな人だった。



『改めまして、現在フィフスセクターでシード監視員をしています名前です。』
『何だよその自己紹介は』

皆も、はぁ、何てもう訳が分からないと首を傾げた。
仕方なく俺が説明をしてやる。

『この人はシード養成所で俺たちシードを世話するシードだ』
『シードの世話をするシード?』
『厳密に言うならシードの卵を、だけどね』
『シードの卵…?』
『シードになるための訓練を受けている奴らの世話、って事か』

ああ、と納得して、でも何でそんな人がここに?と再び疑問符が浮かんだ。
姉さんは笑って続ける。

『世話、と言っても諦めた子にお仕置きしたり、言うこと聞かない子にお仕置きしたり、逃げ出そうとした子にお仕置きしたり…』
『とか言いながら、アンタは手を挙げたりは勿論、ひどいことは何もしなかった…』
『そうだっけ』

とぼける彼女に思わず口元が緩んだ。
彼女は何も変わってない。


『だからアンタの言うことは皆聞いたんだ……、なるほど』
『え?』
『だから、アンタが来たのか』
『…』

こくり、彼女が頷いた。
つまりフィフスセクターは、彼女に懐いている奴なら彼女を裏切れないと、

『雷門はもとより、天河原に万能坂…あそこはシードが居るにも関わらず雷門に敗北、その後にフィフスセクターに反感…』

なるほど、最終兵器として彼女が送られたのか納得。
恐らく先程彼女が言ったとおり、彼女からのお仕置きを受けてそれでも刃向かうのなら"島"に連れ戻す、と言う指令を受けているのだろう。
…彼女がそうするとは到底思えないが。


『あの、』
『はい?』
『天河原や万能坂のシードはどうなるんですか』

キャプテンが恐る恐る訊いた。
皆も気になって彼女の言葉を待っている。


『本来なら、強制的に島に戻されシードとして再教育される』
『再、教育…』
『それでも言うことを聞かない子は、シードの資格を失うの』
『シードの、資格…?』
『サッカーをする資格、と言った方が分かりやすいかな?』

俺達シードに、将来は無い。
敗北した奴、使えないと判断された奴は恐らくもう、永久的にサッカーは出来ない。

シードになると言うことは、こう言う事だ。


『だから私は来たの、』
『…姉さん、』
『そう、私はアナタ達の姉さんなの。京介も、英聖も、夜桜や研磨、ミツル、春馬や皇児達だって、みんなみんな私の可愛い弟…だから』

隠れてフィフスセクターに逆らい、彼女は上手く誤魔化しながらこうやって俺たちの支えになってくれている。
勿論、力でねじ伏せ従わせる奴も居るし精神的に攻めて崇拝にも似た感情を生ませ、依存させる奴もいる。
そうしなければこんな大人数を世話…元より調教、を成せる筈がないのだ。
その中で名前、彼女は俺たちに"優しさ"を持って接してくれた。

バレたら自分が罰を受ける…それにも関わらず。


『姉さんはなぜまだ、フィフスセクターに?』
『その方が何かと都合良いから』
『都合?』
『やっと島から出れたのよ?もう二度と、貴方達を彼処へは連れて行かない』
『姉さん…』

"再教育"
ソレがどんなに恐ろしいか、受けたヤツにしか分からない。
恐らく今、隼総達は諦めにも似た絶望と、この先の不安と恐怖を感じているに違いないだろう。

世界がそうなってしまったのだ。
俺たち子供は、権力有る大人に従うしか道は無い。

『でも、京介が元気そうで良かった』
『あぁ、姉さんも』
『また来るわ。演技に付き合ってくれてありがとう』
『いや…』

演技、って言うのはさっきの初めの会話だ。
恐らく、冬海がまだ見ていたか、フィフスセクターの誰かが見ていたか…どちらにせよ、彼女が悪どく笑うときは俺たちは"敵"同士なんだ。

そう改めて確認をして、彼女は皆に挨拶する。どうやら定期的に来るらしかった。

最後にポンポンと俺の頭を撫でて、彼女は出て行った。





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『剣城、デレてんなー』
『うるさいです』
『なんか名前さんって、剣城のお兄さんに似てるー!』
『黙れ松風』
『(だからか)』




だから余計に、デレたのか京介。



(゚∀゚)

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