1話





組織を裏切って暫く経った。
決して交わることが無いと思っていたけれど…俺は今、そんな雷門でサッカーをしている。

本気で、サッカーをしている。



彼方からの指示は途絶えた。
兄をネタに俺を縛ることが出来ないから…諦めたんだろう。どちらにせよ後悔は、ない。

そんな最中。
もう日常になりつつある放課後何時もの練習風景。
フィールドに降りて準備に入ると、冬海校長がやってきた。
珍しく理事長は居ないようだが…メンバーは奴を睨み警戒している。
ニヤニヤと不適に笑っていたからだ。

態とらしい労いの言葉を吐いて、何かご用ですがとキャプテンが問えば、校長はあなた方にお客人です、と後ろに立つ人物を紹介した。


『やぁ、剣城京介…久しぶりだね』
『っ!』

ビクリ。肩が震えた。
その反応に良い気がしたのか、冬海は満足そうにして。


『彼女はフィフスセクター、聖帝直属のシード監視員です』
『なっ』

ニヤリ。冬海と共にそいつは笑う。
雷門の連中は皆驚きを隠せず元シードである俺を見た。

『つ、剣城…』
『つまり、彼女は剣城を…』
『そう言うことです』

そこまで言うと、皆彼女を睨んだ。
そんな事に彼女が屈する筈もなく、後は任せてくださいと冬海を追い返す。

冬海がサッカー塔グランドから出て行ったのを確認すると、彼女は再び俺を見た。


『アンタ、何で…』
『天河原』
『…』
『万能坂、帝国に海王…そして、雷門』
『何、』
『ここら一体のシードの監視を請け負った』
『…!』

彼女は綺麗に笑うと、キャプテンの近くに転がったボールを軽やかに取り、トントンとリフティングをしながら。

『聞き分けの悪い、手間のかかる餓鬼ばかりだからね…』

彼女は俺をみらず、ボールだけに視線を向けた。
確か、帝国のシードは全員退部…天河原と万能坂は、俺達との試合を経て改心した、と聞いた。


『だったら、どうするって言うんだ』
『聞き分けの悪い子にはお仕置きが必要でしょう?』
『お仕置き…?』
『それでも駄目な子には…"島"に戻って貰おうかなーって』
『っ…!!』


にっこり。
優しく笑い、何て冷酷な事を。


『ふざけるな!』
『っ!』

声を荒げたのは俺では無く後ろに居たキャプテンだった。
コロコロと彼女が蹴っていたボールが転げ落ちる。

『そんな事!絶対にさせない!』
『剣城は俺たちの仲間だ!』
『仲間…だって…?』

ぴくり、彼女が眉根を寄せた。

『そうだ!』
『剣城は、俺達には欠かせない仲間なんだ!』

キャプテンや松風の言葉に、みんながそうだそうだと口々に言う中、俺はすごく恥ずかしい。
なぜなら目の前の彼女はプルプルと震えながら感動しているからだ。
はぁ、と俺はため息を吐く。


『あー…もう良いんじゃないか?と言うか顔戻ってるぞ…姉さん』
『姉さん!?』
『京介っ!良い仲間を持ったね!姉さん嬉しい!!』

ぎゅ、っと俺に抱きつく彼女に、メンバーは呆気に取られ、次第に混乱しだしたらしくえ?え?と首を傾げた。

『剣城の、お姉さん?』
『姉貴分、ってとこだ』
『フィフスセクターの人じゃ…?』
『フィフスセクターのシード監視役に違いはない』
『え?意味わかんない』


はぁ、と俺は再びため息を吐く。
変わって、彼女は先程の悪役顔の人間と同一人物とは考えられないくらいに優しい顔をしていた。


『京介がお世話になってます』
『親か』





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