本音を話せるのはこの人だけ。
『名前さんおはようございます』 『鬼道君おはよー!』 『オハヨーゴザイマスー』 『はーい不動君おはよー!』 『おはようございます、名前さん』 『次郎ちゃんおはよう!』
次々に食堂に入ってくるメンバー。 ご飯は全員揃ってから食べる。それがここの決まり。
『揃ったか?』 『いや、まだ虎丸が…』 『あぁ、虎丸なら』 『此処にいます!』
カウンターを隔て、おはようございます!と元気よく私の後ろから顔を出した。 そう。虎丸は朝からずっと、背中に引っ付いているのだ。
『…何してるんだ?虎丸、』 『充電です!』 『…充電、って』
円堂君に聞かれて、意気揚々と答えた虎丸はまた私にぎゅうっと抱きついた。 て、言うか手がエプロンの上じゃなくて中に入り込んで回ってるんだけどどーゆー事かな虎丸クン?
仕方なく、虎丸を引き擦りながら厨房から食堂へと行き、用意された席へと向かって。
『ほら、ご飯食べて充電』 『あ…!』
絡まる腕を解き、ひょいと掴んで席に座らせた。 ストンと座らされた虎丸はモチロン、周りのみんなも驚いている。 まぁいくら私が大人とは言え、身長も体格もそれなりにある虎丸を簡単に動かしたんだから無理もない。
『すっげ…』 『名前さん、細いのにそんな簡単に…』 『今はどうあれ、昔はこれでも絶対逆らっちゃいけない女番長って呼ばれ、』 『やだわ征矢ったら昔の話なんて恥ずかしいじゃない』 『うぐ、』
ちょっとヤンチャしてたのよ、と征矢の口を塞いでうふふと笑えばみんなそれ以上は聞くまいと口を噤んだ。
ただ一人、虎丸を除いては。
『すっげー!名前さんかっこいい!』
目をキラキラさせちゃって。 純真無垢と言うか、何というか。
『それは、どーも!さ、みんなご飯食べて!今日も練習頑張って!』
× × × × × × × ×
『あの純粋な瞳で見つめられると…偶に辛い』 『偶にかァ?』
ニヤリと響木監督が笑った。 この人は、荒れてた私を救ってくれた恩人。 序でに征矢まで救ってくれた。 今でも本音を話せるのはこの人だけだ。
『虎丸だけじゃない。みんなそう。子供故の純粋さってのかな…当たり前だけど、濁りがなくて余計に自分の汚い部分が目立つってゆーか』 『当たり前だ、お前はもう良い大人なんだからな』
ちったぁ汚れもしねぇとな、と笑う響木さん。 分かってる。 それはきっと、私の成長の証だから。
『あの子達も、そうやって成長していくんだね』 『そーさ。ま、俺からすればお前もまだまだケツの青い子供(ガキ)だがな』 『な、なにをぉおう!?』
からかわれるのは未だに変わらない。 それはきっとこの人と私の"親子"みたいな部分だと思う。
『明け方まで飲み明かした仲じゃないか』 『…お前が飲んだのは烏龍茶だろ』
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酒は弱い。
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