感謝していますが。




その子、一人で歩いてて迷子かなぁって見てたんです。そしたら突然泣き出したから近寄ろうとしたら先にこのお姉さんが歩み寄って、この子を迷子センターまで連れて行こうとしてて。
僕はもう大丈夫かなって安心したら、突然女性の叫び声がして…。


誰か見てませんか?
と、少年は近くに居た女性を見る。
目が合った人達は、こくりと小さく頷きだして、私も見てましたと数人がそう答えた。


『お姉さん、普通に買い物してただけみたいでしたよ?僕そこのファストフード店でジュース飲んでたんで、たまたま周りを見ていたんです』

彼のハッキリとしたもの言いに、周りが賛同しだして。
私を拘束していた男性の手が離れた。

『そもそも、問題が有るとしたらそんな小さな子を放って買い物しているお母さんの方じゃないですか?』
『そうよ、あなた母親でしょう!?』
『子供が側を離れたのに気づかないだなんて…!』


周りに居た女性が口々に言い出す。
警備員さんは深くため息を吐いた。


『お母さんも事務所まで来てください。君と…出来れば君も。悪いけど一緒に来てもらえるかな』
『は、はい…』
『わかりました』

母親と私と、状況を見ていたと言う少年や女性数人が呼ばれて事務所まで行き。
私の話と見ていたと言う人達の説明が一致して「母親の勘違い」と分かってくれた様だ。
どうやらこんな話は良くあるらしく(勿論こんな大げさな事になるのは稀だが)、案外アッサリと終わった。


『ありがとうございました…!』
『いいえ、』
『分かってもらえてよかったわね』

じゃあねと女性は戻っていく。
最後に出てきた少年に、ありがとうございましたと頭を下げたら彼は謙虚にこちらこそと言った。


『僕も見ていて声をかけようか迷ってましたから…』
『君が説明してくれなかったら、私人攫いの変質者になってたよ…本当にありがとう!』

何かお礼がしたいな、ケーキでも奢らせてと言ったら彼はキョトンとした。
あ、人攫いじゃないからねと笑えば、彼は人懐っこく笑って。


『僕がお姉さんを攫っちゃうかもよ?』



なんて、冗談。






『言ったでしょう?声をかけようか迷ってた・って』
『え?……え?』




彼は太陽みたいに笑った。






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