聞こえないふり、





◆イナクロ歴史改変後神童夢。
 サッカーをしなかった神童/切い
 悲恋と言うかスッキリしない話です。




















『神童君、次のコンクール何だけれど…』
『あぁ、』


ふたりで楽譜を並べる。
神童君がピアノ。
私がヴァイオリン。
今年こそ二人で金賞を取ろうね…約束した去年のコンクールは入賞すら出来なかった。
だから今年こそは、と。



『名前…』
『し、』
『名前で、呼んでくれ…』
『…たくと、』

楽譜を覗いていた私たちの顔は、思ったよりも近かった。
目を閉じてお互いの唇が重なる。

この一年間、個々のみを伸ばすだけでは駄目と私たちは急接近した。
元々同じ先生にピアノを習っていた事もあって昔から仲は良かったけど、こんな関係にまで発展するとは私達自身も思っていなくて。

柔らかい拓人の唇が、少し離れてまたくっついた。あぁ、ここはまだ学校だというのに。
触れている所から溶けてしまいそうなくらい、甘くて熱い。

『名前…』
『拓人…』
『大丈夫だ、きっと上手く行くよ』
『ん…』


コンクールまで、後少し。
これからもずっと、こうやって支え合って行けたらって思う。


『拓人、大好き…』
『俺もだ』

お互いぎゅう、と抱きしめあって練習を開始した。
私たちの関係は誰にも話してないけれど、先生や両親達にぐっと良くなったと言われた。
今年こそは金を取れる。きっと、今年こそ。


そんな矢先の出来事だった。
少し遅れて放課後音楽室へ向かうと、部屋から声が聞こえた。
どうやら拓人だけでは無いらしい。


『変なことを言うのはやめてくれ』
『そんなぁー!』

中に居たのは拓人と…知らない男の子。
背は高めだけど、一年生かしら。


『どうしたの?』
『名前っ』

私が顔を出すと、拓人は酷く慌てた様子で私を見た。
何か、聞いては不味い事かな?
その一年生君?を見ると、私にずいっと寄って。


『あの、神童先輩って、サッカー部でしたよね!』

って、聞いてきた。

『サッカー部?拓人が?』
『おい、』
『はい!雷門サッカー部のキャプテン!ですよね!?』

この子、何を…?
私の頭には疑問符しかない。
幼い頃から一緒にピアノをやっていたけれど、拓人がサッカーをしているだなんて聞いたことがないし見たこともない。
そもそも、雷門にサッカー部はない。


『君、人違いじゃない?』
『え、』
『私、小さい頃から一緒にピアノしてるけど、神童君からサッカーの話なんて聞いたこと無いわ』
『だから、言っただろ。俺はサッカーなんてしたこと無いんだって』
『そ、んな…』

彼は数歩たじろいで、酷くショックを受けた顔をした。
何がそんなにショックだったんだろうか、まるで知らない世界へと来た人間…そんな反応だ。
彼が去った後、変な子だったねと言うと拓人は俯いて何やら考えているようだった。
しまった、コンクール前なのに…。

『拓人、あんまり気にしない方がいいよ?』
『あぁ…』

案の定、心を乱された拓人のその日の演奏はボロボロで。
かく言う私も、ボロボロだった。





『サッカー、か…』


呟かれたその言葉は、聞こえないフリをした。




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ある平行世界の、お話。
20121115

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