episode:07
お前が自覚しろって話だよ
『まったく…ヒロトさんに知られたら俺が怒られるだろ?』 『なんだかんだで、ヒロトは兄バカV3だからね』 『…いやお前が自覚しろって話だよ』
年は変わらないんだから、普通なら"恥ずかしい"って感情がわいて来るはずなのに。 この人は物心つく前から、あの大人数且つ妹バカな奴らに甘えさせられて育ったから、どうも男だとか女だとかそーゆーのに疎いらしい。
だから平気で下着で歩くし、油断したら未だに風呂にも一緒に入って来ようとする。 俺がお日様園に来たのは既に小学校高学年で、普通に普通の男の子だった俺は、そりゃあ度肝を抜かれた。 まさかイッコ上のねーちゃんが素っ裸で風呂に突っ込んでくるなんて思わないだろ?
今としては馴れたけど(2年もあれば、そりゃな)、こんな知らない奴らのナカでもそうなのかと呆れた。 コイツにとったら、雷門のみんなも兄弟みたいなもんなんだろうか。
名前が制服を着ている間に、皆も服を着た様で。 名前が着たよと制服で現れたのにホッとしたらしい先輩達は、何でお前居たんだよと尤もな疑問を投げかけた。
『サッカー塔にシャワールームは此処しかないじゃない』 『そうだけどさ…』 『てゆーかシャワー浴びたのかよ』 『浴びたよ?三国先輩の隣で』
ゴンッ 瞬間凄い音がした。 三国先輩が壁に頭を打ち付けたらしい。
…ご愁傷様です。
『お、お前なっ!』 『後、ここの冷蔵庫に冷えピタが有るって聞いて』 『冷えピタ?』
冷蔵庫から冷えピタを一枚取り出し、名前はベンチに座って右足を上げた。
『っ!』 『なんだ、それは…?』
気持ち悪いくらい白い肌。 そしてその右足首に浮かぶ赤紫に鬱血したそれを、全員が凝視した。
『怪我したのか!?』 『見せてみろ!』
キャプテンが慌てて名前の前に跪き、怪我を確認する。 見るだけで痛々しい…思わず顔をしかめた。
『び、病院に!』 『えー良いよ大丈夫大丈夫。痛くないし』 『い、痛くないわけないだろ…』 『ちょっと、何で神童君が泣きそうなの』
変なの、って笑って頭を撫でる。 名前は冷えピタを自ら貼って、そのまま立ち上がった。
『そうだ、今日アイシーと買い物行くんだった…じゃ、お先します』 『ちょ、名前っ!』
キャプテンが止めるのも聞かず、そのまま名前は出て行った。 霧野先輩に『アイシーって誰だ?』って聞かれたけど、俺は知りませんと答えた。 名前は時々、昔お日様園に居た皆を変なアダナで呼ぶ。中でもグランを尊敬していた、と嬉々として話してくれたことを覚えている…けど、俺はグランが誰なのか知らない。 理由は本当に、知らない…。
『おい、名前ー?』 『あ、円堂監督』 『お前達、名前を知らないか?』 『彼女なら、今帰りましたけど…』 『そうか…』
監督はうーんと考えて、後ろに立つ鬼道コーチを呼んだ。 二人は目配せすると、全員ミーティング室に集合だと言い出ていく。 早く帰りたいのになぁと思ったのはどうやら俺だけみたいで、皆ぞろぞろとミーティング室へと向かった。
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