episode:06
服を着ろォォオ!!
『良いかい、名前』 『はい』 『お前は強くならなければならない』 『はい』 『お父様の為だ』 『はい…ウルビダ姉さん』
私は強くならなければならない。 私は強くならなければならない。 私は、
『来い、剣城』
いつの間にか外野が手を止め足を止め、此方を見ていると言うことは。 真剣な私たちは気づかなかった。
『剣聖ランスロット!』
そうだこれだ。 先ほどと同じ"化身"
『"ロストエンジェル"』
禍々しいオーラを放つも、姿が形成されればそれは光に変わり輝きが増す。 ああ綺麗だなと、思った。
『凍てつくがいい…』
それを、私が壊す―――、
『"ノーザンインパクト"』
体を捻り反動で力いっぱい打ち返す。 やはり受け止めるのと蹴るのは違うからか、はたまた2回目だったからか。 先ほどよりも軽かった。
蹴り返されたそのボールは、勢いに乗って真っ直ぐ正面のゴールへと向かった。 どんなロングシュートだ、ザ・フェニックスじゃ有るまいし。
誰も止める事をせず、ゴールへ突き刺さったボールは勢いが死んで転々と転がった。
『ふぅ、』 『つ、剣城の化身シュートを』 『打ち返し、た…?』 『っ、』
剣城君がたじろいだ。
『中々凄いボールを…』 『こらぁ!名前っ!!』 『ひっ!』
怒鳴り声が聞こえたと思ったら、走ってきた円堂君にゴツンとたたかれた。 痛みで頭を押さえる。
『誰が必殺技を許可した!』 『ふぇ!?不可抗力だよ円堂君』 『何が不可抗力だ。思いっきりゴール決めといて』 『いたたたた…その素晴らしきキーパーの右手でグリグリとか止めて止めて止めてぇえ』
ごめんなさいと謝るとぱっと手が離れた。
『約束が守れないなら、ヒロトに言うからな』 『ひぅ…』
ヒロト兄さんに言われるのは困る。 心配はかけたくないし…何より、私の"計画"の妨げになるからだ。
『ごめんなさい円堂君!言うこと聞くから!』 『いいな、ちゃんと聞くんだぞ!約束だからな』 『り、了解です…』
ぐりぐりと頭を撫でられた。 今度はちゃんと、優しく。
▼
『監督、名前の事心配しすぎじゃねぇ?』 『倉間もそう思ったか…』
部活後、シャワー室横の脱衣所でみんなでのんびり話していた。 いつも各々話す会話も、今日は名前の話で持ちきりだった。
シャワー後だからとほぼ全員、穿いているのはパンツかズボンのみ。 上は裸だ。 霧野はシャツを羽織り、前は止めずにクーラーの風に当たりながら俺を見た。 浜野なんかはその上扇風機を掛け当たっている。
『しっかし、剣城の化身シュートを蹴り返すとはな‥』 『凄いですよね!必殺技も…なんかキラキラしてて…!』 『何て言ったっけ?えーっと、ノー…ノーザ?』 『ノーザンインパクト?』 『そうそれです!』 『格好良かった!』 『ありがとう』 『またみたいなー!』 『しばらくは禁止って言われたからまた今度ね』 『『はいっ!…ん?』』
すたすたすた。 部屋を横断するそいつを、みんな凝視した。 本当に、毎回毎回ナチュラル会話に入るよなってそんな事より、だ。
『あ、れ…?名前先輩?』 『うん?』 『名前、お前…何、し…て…?』 『しっ、神童っ!?』
ガターンと音を立てて神童が倒れた。 俺もそれまで急に現れた名前を凝視してしまって。 神童の倒れた音にハッとした。
『つ、つーか!バカ!!』 『名前お前!』 『ふ、服を着ろォォオ!!』
『みんなウブだな』
下着姿ですたすたすた歩く名前はそのまま設置されている冷蔵庫へと向かい、中からミネラルウォーターを出し飲んでいる。 すらりと伸びた手足にくびれた腰…ふっくらしたお尻と太ももと。程よく膨らんだ胸…服の上からじゃ分からないが、すごくスタイルが良い…。
『て、ちがくて!』 『ん?』 『服を着ろ!!』 『ちゅーか名前ちゃん…思ったより胸デカ…』 『浜野君は何見てるんですかぁっ!!』
真っ赤になった速水が浜野を殴った。 あ、速水テンパってんな。 錦なんか鼻血出てるし…。
『何、みんなどうしたの?』 『どうしたのじゃねーし!』 『ちゃんと下着はつけてるじゃないか』 『それが問題なんだって!』 『裸が良いのかい?意外に大胆…』 『逆だよ逆、いい加減にしろよこの痴女が』 『こらこら、姉さんに向かって痴女はないだろマサキ』 『うるさい!』
名前の服をひっつかみ、角へと引きずって行ったのは1年の狩屋だった。 つか、今何て言ったよ?
『姉さん?』 『マサキ?』
狩屋は赤面するよりも、呆れていた。
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彼女だって胸囲の侵略者。
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