episode:02
私が男の子に見えるかい?
影山の何とも言いがたい悲鳴を聞き、全員がその声の方を見ると彼の肩には真っ白な手が掛かっていて。 全員がゾクリと身を震わせた。
本人は腰を抜かしたみたいで泣きながらよろめく。 それを支えたのは後ろに居た手の主で、影山はぽふ、とそいつの胸に受け止められた。
『っ…!』 『あはは、ゴメン…驚かせちゃったかな』 『え、あ…』 『オマエ…!』
背が低い影山の顔を上からのぞき込むその人はにこりときれいに笑って。 影山は瞬間、真っ赤になって離れた。
彼女は次に俺を見つけてあ、と声を上げる。
『あ、君…さっきは助かったよありがとう』 『いや…』
ふわ、っと笑う彼女に、みんなが魅入った。 本当に綺麗な子だな。いささか色が白すぎるけど。
『えっと、君は?』
はっとして三国さんが問いかけた。 彼女は首を傾げて、ああそうだったサッカー部に入部希望ですと既に綺麗な字で書かれた届けを差し出す。 入部と聞いて神童が一歩前に出た。
『入部希望か』 『うん、一応部員希望かな』
はい、と出した彼女の書類を受け取り目を通す。 周りの俺たちもそれを覗き込んだ。
『…名前…、二年か』 『これ名字どうした?』 『なんかいっぱい書き直されてるけど…』 『ああ、何度書き直しても兄たちが名字を訂正するんだ…まぁ、名字は気にしないで名前で呼んでよ』 『はぁ…』 『…ん?ポジションは…』 『一応FWって書いたけど、何でも出来るよ』 『何でも?』 『うん、だから何処に置いてくれても構わない。』 『つーか、女子は公式試合には出れねーよ』
剣城があきれて言い、俺をチラッと見た後、まさかオマエ男とか言うんじゃねーよな?と笑った。 どーゆー意味だこら。 彼女はにっこりと笑い、剣城の手を取って。
『私が男の子に見えるかい?』
と、自らの手で剣城の手を胸へと寄せた。
『…はぁっ!?』 『ちゃんと胸が有るだろう?』
むに、と潰れていくその丘は、見た目よりも大きいのかも知れない。 てゆーか!
『おい!何もそこまでしなくても!』 『ん?』 『剣城固まってるっ!』 『しっかりしろ剣城!』
真っ赤になる剣城をクスリと笑い手を離すと、おかしいな監督には話が通ってる筈だけど…と首を傾げた。 しかし誰も監督からそんな話は聞いていなくて。 ちょうどその時、ミーティングの為に監督とコーチ、顧問の先生がやってきた。
『みんな集まってるか!』 『円堂君…っ!!』
ぶわっと彼女の周りに花が咲いた、…様に見えた。彼女は監督を見ると頬を染め、駆け寄って抱きつく。
全員が呆気に取られる中、監督はニカッと笑って頭を撫でた。
『名前じゃないか!』 『はい!名前です!円堂君好き!』 『そうか!元気そうだな!』 『元気だよ!円堂君好き!』 『鬼道!名前だ!』 『見れば分かる。相変わらずだな、オマエ益々アイツに似てきたんじゃないか』 『円堂君円堂君ー好きだよ、円堂君っ』 『(鬼道コーチを)』 『(完全無視!)』
ははは、と笑う円堂監督にうっとり愛の言葉を告げる名前。 鬼道コーチはピキピキと青筋を浮かべると、彼女の頭を鷲掴んだ。
『名前…、そういえば選手としてサッカー部に入りたいそうだな』 『うっ…痛いです鬼道さんっ』 『昨日の夜にヒロトから電話があってだな』 『ひぐっ』 『朝に緑川からきちんと躾てくれとメールが入った』 『ヒロトもリュウジもお節介だなぁ』
何だか面倒そうに、でも嬉しそうにそう言った彼女にとって、今名前が出た二人は彼女の名字をぐしゃぐしゃと消した兄なんだろうか。
『いいよね、選手として入部許可をください』 『正式な試合には出せんぞ』 『それは分かった上でさ』 『か、監督もコーチも本気なんですか…?』
神童の言葉は、きっと皆の言葉を代弁したものだ。 いくらサッカーが出来ても、華奢な彼女が男子に混じりプレイする姿が想像出来なかったからだと思う。
円堂監督が彼女に向いた。 おそらくテスト。 「サッカーは好きか?」だ。
しかし彼女は、にっこり笑って先手を打った。
『サッカー好きな兄に囲まれてその中で一番に愛を注がれた私が、サッカーを愛してない訳がないよね、』
ね、円堂君。
ああ、そうだな。 円堂監督は優しく笑った。 対して鬼道コーチが顔をしかめたのを、俺たちは知る由もなかった。
『…だから結婚して!円堂君!』 『よーし!皆!練習するぞ!』
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