episode:01
あれ?もしかして女の子だった?
俺、霧野蘭丸は感動している。
『ねぇ、君』
透き通った声が誰も居ない廊下に響いた。
『君だよ、君。二つ結びのカッコイイお兄さん』
今思えば。 普段女扱いされて腹を立てる癖に、それに馴れてしまっていて初対面の人間に「男」扱いをされるはずがないと自分でも思っていた。 から。
『ね、てば…』 『っ!』
だから気づけなかった。 ジャージを着た俺に、「カッコイイお兄さん」なんて言葉が掛けられるなんて思うはずがない。別にシカトしたわけじゃあ無いんだ。
肩を叩かれて振り向いたら、驚いた俺に驚いたらしいその子は。 真っ白な肌に真っ赤な髪をしていて、エメラルドグリーンの瞳を丸くさせていた。
『え、あ…俺?』 『あれ?もしかして女の子だった?』
よもや「もしかして女の子?」なんて訊かれる日がくるなんて。 逆は日常茶飯事なんだけど。
『いや…男、であってる…』
少し戸惑いながらそう答えたらその子はニコリと可愛らしく笑った。
『何か用か?』 『あ、そうそう。職員室を教えて欲しいんだ』 『職員室?』 『うん、実は転校して来て…明日からここの生徒なんだ』 『そっか、』
よろしくな。 笑いかけたら微笑み返された。 なかなか可愛らしい。
幸いな事に職員室は近く、ルートを教えたら彼女はありがとうと頭を下げた。
『じゃあまたね』 『あぁ、』
スタスタと長い廊下を歩き出した彼女を見送り、自分も歩き出す。 そうだ、折角なんだから名前くらい聞いておこう。 別にやましい気持ちは無いんだ。ほら、これも何かの縁、って言うだろ。
『なぁ…!』
少し大きめに声を出して振り返る。 けれど廊下には既に彼女の姿は無かった。
『あれ?』
可笑しいな、見るけれど人の気配すらない。 なんだか腑に落ちないけれど…少し残念に思いながら、俺は部活へと向かった。
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『ユーレイだど!』 『それか霧野の妄想?』 『ちゅーか、霧野を初めて見て男って判断出きる奴いんの?』 『やっぱりユーレイだど!』
さっきの出来事を話したら、この言われよう。 上がったテンションはたたき落とされた。
『しかし、不思議な子だな』 『ですね、明日が楽しみです』
気を利かせた三国さんと神童が話を変える。 つられてテンションが上がった一年が盛り上がって。 天馬と信助はきゃっきゃと話す。
『サッカー好きかな!?』 『好きだと良いねぇ!』 『んなピンポイントで来るかよ…』 『サッカーは大好きだよ』 『ほら!好きだって!良かったね剣城!』 『な、別に俺は…!‥‥は?』 『ポジション何処かな!?』 『でも天馬、女の子だって言ってたじゃない』 『…おい?』 『あ、そっかー…でもサッカーに性別関係ないよ!』 『おい、オマエ等…』 『そうだよね!一緒にサッカーしたいな』 『いいよ』 『イイだって!』 『わーいやったぁ!』 『オイって!』 『もう、何だよ剣城!』 『オマエ等誰と喋ってんだよ』
え? その場の空気が凍り付いた。 俺たちも今の会話を聞いていて…間に入る声を、認識していたから。
『まさか…』 『本当にユーレ…』 『ひどいな、ユーレイだなんて』 『ひぎゃぁぁぁあっ!!』 『ひっひかるっ!?』
影山が、突然叫声を上げた。
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