episode:13
ひみつ
空はどんよりと曇っていた。 まるで私の心を表すようだと、自嘲した。
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土曜日。 学校は休みだけれど部活が有る今日は生憎の曇り空で、私が学校へ着く頃には小雨が降り始めていた。
『名前じゃん』 『あ、霧野君』
おはよ、とお互い挨拶をすると、ふいに陰った気がして。 空を見ればそこにはビニール傘。どうやら彼は私を傘へと入れてくれたみたいだ。
『風邪引くぞ?』 『大丈夫だよ、小雨だし。もう学校だし』 『ばっか、制服だって自覚持て』
はぁ、とアカラサマに呆れたため息を吐かれてタオルをかけられた。 少し大きめのスポーツタオル。 ああ、気を使ってくれたのかと申し訳なくなった。
『ごめん、下着すけてた?』 『い、言うなよ。俺がせっかく気を使って言わないでやったのに!』
かぁ、っと赤くなる霧野君は見た目よりずっと男の子で、誰よりずっと紳士的だ。 なんだか可笑しくてクスクス笑うと、またため息を吐かれた。
『お前さ、もう少し自覚したほうが良いぞ』 『え?』 『何ていうか、下着姿で歩いたり、同じシャワールーム使ったりとか…さ?』 『…う、うん?』
少し恥ずかしそうに言葉を探しながら話す霧野君は、時折ちらちらと私を見ながら口を閉じたり開いたり。
『ほら、俺達だって中学生だしさ』 『うん、』 『カラダだって大人になってく訳じゃんか』 『う、ん…』
すごく悪いことをした、みたいだ。 母親に叱られてる子供って、こんな気持ちなんだろうか? しゅんと落ち込むと、霧野君はワタワタと少し焦って再び口を開いた。
『俺もこんなだけどちゃんと男なんだし』 『うん?』 『中学生とかって、"多感な年頃"って言うじゃんか』 『う、ん』 『女子ってだけでドギマギするのに、名前は特に可愛いからさ…』
だから、気をつけような? と笑う霧野君。 何とか無理矢理占めたのは良いんだけど、最後凄く恥ずかしいよね。 それに気付いたらしい彼は、あ…と声を出して赤くなった。 弁解の余地は無いと悟ったらしい。次は苦笑い。
『分かったよ』 『え、あ…』 『ごめんね、今度から気をつける』 『そう、か…よかっ』 『だから、』
きゅっと彼の袖を掴む。 何だろう、この気持ちは。
『私を、嫌わないで…』 『名前…?』
ぽたりと傘から雫が滴った。 少し雨足が増したようだ。
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『ちょ、名前力つえーよ』 『倉間君カラダ固いね』 『うるせーな…』
笑いながら柔軟をして、練習に入る。 名前先輩俺にシュート教えてくださいいえ俺にキャッチ教えてくださいとか一年生達に懐かれて取り合いされて。 名前は人気じゃのーと錦君に言われたりして。 私はちゃんと、雷門の一員になれたみたいで嬉しかった。
『じゃあ影山君と剣城君がシュートして、西園君はキャッチの練習しようか』
その方が効率いいだろう。 みんなでゴールへ向かう。ボールをそれぞれ持って歩いてたら、影山君に先輩落としましたよって袖を引かれた。
『え、何?』 『ネックレスです』
はい、と手のひらに置かれたのは紛れもなく私がいつも首にかけているネックレス。 飾りの部分にはめ込まれた紫の石を、影山君はキラキラした瞳で見ている。
『ありがとう!良かった…気づかなかったよ…!』 『いいえ!それにしてもキレイですね!』 『そう、かな…?これは父さんに貰った御守りだから、本当に大切なんだ…影山君本当にありがとう』
チェーンの留め具が甘くなってるみたいでまた落としたら大変だと上着のポケットに入れて。 昔はもっとキレイだったんだよと言えば、感心したような声を出した。
『なんて言う石なんです?』
ニコニコしながら訊ねる影山君。 好奇心が旺盛なのは、悪いコトじゃないよ。
『ひみつ』
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アレだよ、アレ。
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