episode:12






『びっくりしたぁ〜!』
『名前先輩って、実はお嬢様なのかな!?』
『本人はそんな素振り見せなかったけどなぁ』
『ね、狩屋!狩屋は知ってるんだろ?』
『いや…知らない』


俺が来た時には既に居た名前は、俺が知らない元お日様園の奴らを知っている。
ヒロトさんやリュウジさんみたいな、既に独りで暮らしているみんなを。
きっとさっきの人もそうなんだろう。

『(なんか…もやもや、)』









 ▼

『みんなとは、仲良くなれた?』
『うん、みんな優しいよ!マサキもいい子にしてるみたい』
『マサキ…あぁ、狩屋マサキか』

レストランでご飯を食べて、風介のマンションへと来た。今日はここに泊まる。
綺麗なキッチンで食後のコーヒーを入れながら、そんな会話をした。

『ねぇ、名前』
『うん?』
『サッカーは楽しい?』

投げかけられた問いは部屋に静かに響いた。
うん、と頷くと、風介は少し悲しそうだった。


『私がガゼルだった時…あのお方の為に必死だった…』
『……』
『周りは敵だらけに見えた。今まで一緒に過ごした兄弟、なのにね…』
『ガゼル…』
『結局選ばれたのはガイアだし、私達カオスはボロボロだし…思えば"楽しい"なんて感情は無かった。とにかく必死だった。』

ゆらり、湯気を立てるコーヒーが揺れる。

『だから名前、君が"楽しい"って言ってくれる事が嬉しいよ』
『う、ん…』

楽しい。
こんな身体だけど、それは嘘じゃない。
サッカーは好き。大好き。

(ツマンナイ。)
そんな事はない。
(本気をだした試合がしたい。)
私はいつだって、本気だよ。


『…ねぇ、名前…足を見せて』

急に立ち上がった風介は私に詰め寄りそう言った。
足、とは剣城君の化身シュートを打ち返した時に痛めた所の事だろう。

『…へんたい』
『成る程、晴矢はそうやってはぐらかしたんだな』
『…う、』


図星だった。
病院なんて行ってない。
晴矢はほら、未だにウブだからはぐらかすのは簡単だったけど。


『私の必殺技を使ったって?』
『…う、ん』

風介の手により、靴下を脱がされる。
端から見たら風介ロリコンで捕まりそうだよね、この光景は。
なんて考えながら、


『…これは、』

既に治りかけている痕を見て、風介は怪訝そうな顔をした。


『風介、私もう大丈夫だから』
『湿布くらい貼りなさい』

お風呂から上がったら貼ってあげるよ、と風介は靴下を戻して立ち上がる。
複雑そうな顔をする彼に、私は言葉をかけることが出来なかった。










夢をみた。



まだ幼い兄さんや姉さん達が、
敵対しあい、
いがみ合い、
つぶし合う。

そんな、夢を。



『ぐらん、れーぜは?』


幼い わたし は問いかける。
グランは優しい顔で答える。

『レーゼはね、負けちゃったんだ』
『まけちゃったの?』
『うん、だからもう要らないから消えちゃった』



幼い わたし は問いかける。


『ぐらん、でざーむは?』

グランは優しい顔で答える。


『デザームはね、負けちゃったんだ』
『まけちゃったの?』
『うん、だからもう要らないから消えちゃった』



幼い わたし は問いかける。

『ぐらん、がぜるとばーんは?』

グランは優しい顔で答える。

『あの二人はね、負けちゃったんだ』
『まけちゃった、の…』
『うん、だからもう要らないから消えちゃった』


にっこり。
グランは優しい顔で笑む。

わたし はそれに恐怖を感じた。
怖い、これは、誰?
グラン?ヒロト?

いいえ、これは。



ふわり、抱きしめられる わたし 。
長い赤毛が垂れてくる。
顔を覗けば、そこには


"私"


『…ねぇ、ぐらん、は…?』

幼い わたし は問いかける。
"私"は優しい顔で答えた。


『グランはね、もう居ないの』
『いないの?』
『そうよ、居ないの。』

何処へ行ったの?
わたし が問いかける前に、"私"は冷たく言い放った。

『失敗作だから破棄したんだよ』


悪魔がそこにいた。








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(私は失敗作なんかじゃない)
(私は、)
(私は、あの人の)

("最高傑作"なのだから)

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