壁に飾り付けられたカラフルな飾りを見て小さなため息が出た。卒業おめでとう、と書かれた黒板はとても綺麗なのに消してしまいたいと思う自分がいる。卒業したくないのだ、友達と離れてしまう。小学校、中学校、高校と自分の地元の学校に通ってきた。私とおんなじような生徒は多く、大抵は顔見知りだ。小学校からずっと同じクラスの子だっているくらい。そんな子達と離れるのが名残惜しいらしい


「卒業、か…。」

実感が湧かない。確かに私は明日卒業するのに。大学生の自分が想像出来ない。高校を卒業するとみんなに会えなくなる。地方の大学へ行く子、就職する子、短大へ行く子、専門学校へ行く子その他にもたくさんの子が自分の意思で道を進む。道を進むと云う事は違う方向へ歩くと云う事。道が違(たが)ってしまうのだ。でもそれは私達が大人になる過程には必要で、私の力でどうこう出来る問題ではない。

卒業式の時はたくさんの人といっぱい写真を撮ろう。そしててアルバムに挟んで飾るのだ、それが良い。悔いが無いように…

「みょうじまだ居たのか」

「…ピン。」

「泣いてたのか?」

ケラケラ笑いながら教室に入ってきて教壇に上がり教室を見渡す。彼も少し寂しいのだろうか

「泣いてないよ」

「泣きたいって顔してるぞ」

「別に泣きたく、ないよ。」

「嘘つけ」

コツコツと教室の中を歩き一番後ろの私の席までやってきて前の席に腰掛ける。

「良いじゃねーか卒業。」

「どうして?」

「お前大学生だろ、自由じゃねーか。何だって出来る。」

「…。」

「不満か?不満なら大学辞めろ」

「そうじゃない。そうじゃないけど」

「お前が決めた道だろうが」

「…うん。」

「俺的にはさっさと卒業して欲しいけどな」

「なにそれ、そんなに私が嫌いなの」

私がケラケラ笑うと急に先生は静かになった。教室には先生と私の息づかいしかしない。静寂。

「ピン卒業祝い頂戴よ」

「あ?そこは普通お前が俺に感謝の贈り物をすべきだろう」

「お金ないもん」

「俺もねえよ」

「時間もないし」

「俺もない。」

「だから何もあげられない」

「そーかよ。じゃあ明日卒業式が終わったら職員室来い。」

「はい?」

「分かったな」

「え、なに。なにかくれるの?」

「それは卒業式終わってからの楽しみにしとけ。」

「…分かった。楽しみにしてる」

 ・
 ・
 ・


胸ポケットには綺麗な花が刺さり、代表の送る言葉も終わりみんな涙をふいている。勿論私もだ。鼻水も出てきた。鼻をすする音があちこちからする体育館は少し異様だった。

クラスの子とは後で教室で写真を撮ろうね、と約束をして一人職員室へと続く廊下を歩く。廊下は静かで大抵の先生は生徒と写真を取ったり送るメッセージを書いたりと忙しく出払ってるようだ。右手には卒業証書、左手には何やかんや良いながらもピンへのささやかなプレゼントを持っている。一応お世話になったしね 。何故か少し緊張するけど気のせいだと思わせる。

「ピン、来たよー」

ガラリ職員室を覗くと先生はピン以外誰も居なかった。先生も生徒に囲まれ大変なのだろう。

「誰も居ねーし楽にしてて良いぞ」

「出す茶もないのに良く言うよ」

「うるせーな。それよりみょうじお前ちゃんと卒業したんだろーな」

「ちゃんとしましたよ。ほら」

右手に持った筒に入った証書を取り出し広げピンに見せた。すると先生は薄く笑い彼の口元は弧を描いていた。

「な、なんですか…笑って」

「いや、お前はもう俺の生徒じゃねーんだなと」

「そんなに私が嫌いですか。こんなとこ呼び出して私に悪口ですか。いったい何がしたいんです、か…」

「お前泣くなよ」

そう言いピンは少し罰が悪そうに頭をガシガシと掻いた。だってそうさせたのは先生なのに

「みょうじ。」

「…。」

「顔上げろ、手どけろ」

「…。」

涙で濡れた顔を両手で覆い左右に頭を振る。今手を離したらみっともない顔を見られてしまう。彼がため息を一つこぼした。

「…なまえ。」

「っ」

耳に届いた声にびっくりしてバッと顔を上げるとピンは少しかがんで左手で私の手首を掴み右手で私の顎を軽く持ち上げ軽い口付けを落とした。

「…、」

「なんだ、お前目点だぞ」

「え、ちょ…だって。え?」

ごちゃごちゃになる頭の中を順に整理をしようとしても何をどう整理して良いのかさえも分からず思考が止まる。

「…き、教師がこんな事許される訳な…い。」

唇を両手で覆いもごもごと喋る。ピンは変わらず私を見下ろしている。

「何言ってんだ、お前はもう俺の生徒じゃねーだろーが」

「…?」

「だから、お前は大学生。俺は高校の教師。全く問題ない」

「あ、あるよ!教え子にこんな事っ」

「お前のその右手に持ってる物が証拠だろ」

「意味分かんないです。」

「じゃあ、みょうじ。お前は俺の事嫌いか?」

名字呼びに戻った事に少し残念な自分が居た。

「…す、好きです。」

「おーそうか、意外と素直だなお前」

そう言い私の頭をガシガシと乱暴に撫でる。撫でるというよりかき回すに近いけれど、

「じゃあ何も問題ないだろ?」

「…。」

「お前は俺が好き。俺もお前が好き。それで良いじゃねーか」

「え、ピン私の事…好きだったの?!」

「だからそう言ってんだろ」

頭をガシガシ掻き違う方向を見る先生の耳はほんのり赤い気がした。あれ、本当なのかな。信じて良いのかな、先生が私の事…

「冗談ですか」

「冗談言ってるように見えるか?」

「み、見えます…。」

すると彼はため息をつき机に置いてあった珈琲を一口喉へと流し込みさっきの素直は何処行った、と呟く。その反応に少し嬉しさを感じる。

「俺はお前が好きだ。これじゃ駄目なのか?」

「…。」

「まあ、どう言おうが構わねーけど。」

「私の気持ちは無視ですか?!」

「無視じゃねー。お前の気持ちも汲んでこの結果だ」

「わ、私は別にピンの事好きじゃ…ない、し。」

「俺の目見て言え。」

「っ! …。」

キッと軽く睨むと余裕そうな彼が腕を組んで私を見る。悔しい。負けた気分だ、

「……です。」

「もう一度。」

「…き、です。」

「声出せ、声。」

「好きです!」

怒鳴るようにそう言うと暖かさに包まれた。私を抱きしめる腕は確かにピンだった。

「言えんじゃねーか。」

そう言ってもう一度唇に口付けた。先程の物より長く甘く。優しいものだった。

「卒業おめでとう。」

「…有難う、御座います。」

「また泣くのかよ」

「煩いです。先生…」

「なんだ」

「私、卒業出来て良かったです。」

「…そうか。」

「先生の生徒じゃないのが…嬉しい、です。」

「そうか。」

優しい腕がまた私を包んで強く抱きしめてくれた。先生にあげようと思ってたプレゼントが手からするりと落ちる。

先生今まで有難う御座いました。

これからも宜しくお願いします。


人生の先輩から花束とチュウを

◎初めてのピン夢。かなり俺様なピンを卒業生へ贈ります。



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