少年時代B

「玉川……、お前、全然変わってないのな」
十年のブランクなど無かったように返事ができたのは、この笑顔のお陰だったのかもしれない。思い出話に花を咲かせた俺たちは、久しぶりにあの頃と同じように笑いあえたのだ。
もう会うことも無いと思っていた。あいつは今頃、俺のことなんか思い出すこともなく、誰か他の人間と同じ時を過ごしているのだろうなんて考えていたのに。こんな偶然があってもいいのか。神様、俺は期待してしまうよ。もしかしたら、こいつとは離れられない運命なんじゃないか、なんて。あの頃と同じように、また玉川の一番に戻れるんじゃないのか、なんて。
そんなこと、あるわけないか。もう俺たちは大人だ。きっとこいつは彼女なり奥さんなりがいるだろう。
「荒木は、もう結婚とかしてんの?」
こいつ、俺の考えていることが聞こえでもしたんだろうか?
「いや、してないよ。そういう玉川はどうなんだ?」
本当は聞きたくないんだけどな。でも、話の流れ上聞かないわけにはいかないような気がして。暗くなりそうな気分を叱咤し、どうにか笑顔を張り付けて玉川の答えを待った。
「してないよ。っつか、そんな相手いないしね」
「相手が居ないって、彼女くらいはいるんだろう?」
「居ないよ。あ、ゲーセン発見!ここ入ろうぜ」
話の腰を折り俺の腕を引っ張る玉川に反論する暇もなく、いい大人になった俺たちは二人でプリクラの機械の前に立っていた。
「……お前、この年齢でこんなモンやるつもりか?」
困ったように立ちつくす俺を尻目に、玉川はあの頃のままにせっせと機械を操作していく。
「ほら荒木、笑って!もう撮影始っちまう」
「んなこと言われても……」
「あーもう、荒木こっち向いて」
咄嗟に奴のほうを向いた俺の唇に、なにか暖かいものが重なる。
「……玉川……?」
呆然としている俺の前に、出来上がったプリクラを渡してくる玉川。こいつは情けなく眉を下げると、小さく謝ってきた。
「……ごめんな、荒木。高校ん時、ずっとお前のことが好きだったんだ」
何を言っているんだろうか。大体、こいつが彼女なんか作るから俺はこいつから離れたんだというのに。俺を好きだったわけ、無いではないか。
「彼女が出来てお前が離れて……、気付いたんだ。彼女っていう存在に憧れてただけで、俺は彼女のことを好きじゃなかったんだって。お前のことが、好きだったんだって……」
「なに、言ってんだよ……」
「卒業して、何人かと付き合ったりしたこともあったけど、やっぱり何か違うんだ。高校時代のお前と一緒だった時の楽しさと比べちまって、結局長く続かなかった」
これは、夢なのだろうか。最近、玉川のことばかり考えてしまっている俺が見ている、都合のいい夢。
だってそうだろう?こいつが俺を好きだなんて、あり得ない。再会することすら無いはずの相手なのだ。
「……ごめんな、迷惑だよな。でも、ほんとは高校生の時に、お前とこういうことしたくて堪らなかった」
こういうこと、という言葉とともに先ほど撮ったプリクラを俺の手に渡してきて。そこには、玉川にキスされた俺が写っていた。
「もう会うことはないだろうけど、元気でな……」
プリクラ機から出て行こうとする玉川の腕を咄嗟に掴む。何を言えばいいのか、どうすることが最善なのかも分からないけれど、それでも確かめたいことがあったから。
「好きだった、って言ったよな。それは、過去形なのか……」
震える声で尋ねると、玉川は困ったように表情を曇らせた。
「過去形だったらよかったんだけどな……」
……その言葉だけで十分だった。玉川も、俺と同じ気持ちでいてくれたのだ。
俺たちは馬鹿だ。十年も回り道をしてしまった。それでも、これで良かったのかもしれない。回り道をしてしまった分は、今から全力で取り返していけばいいのだから。
誰も見ていないプリクラの機械の中で、俺たちは二度目のキスをした。


★あとがき★
通勤途中で思いついたネタ。初恋が実る物語が大好きです。


2009/11/19


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