少年時代A

生まれて初めてのプリクラに戸惑う俺をよそに、玉川は慣れた手つきで操作をしていて。そんな奴の一挙手一投足に、俺と奴の違いを見せられた気がして軽く落ち込んだ。
そんな俺に気付いていないのか、操作を終えた玉川は俺に何か言いながら後ろから抱き付いてきて、出来上がったプリクラに写っていたのは、俺を抱き締め満面の笑みを浮かべる玉川と驚きを通り越して極悪顔になっている俺の姿だった。
「荒木の顔、ヤバすぎ!」
プリクラを見た玉川は盛大に爆笑していて、俺はなぜ玉川が抱きついてきたのか考えるのをやめた。あまりにも俺と似たところが無い奴だったから、こいつの考えていることは俺にはきっと一生理解が出来ないだろうと諦めたのだ。

あれからも何度か玉川とプリクラを撮った。あいつは女みたいに手帳に大事にプリクラを集めていて、いつしかあいつの手帳の中には俺と二人で写るプリクラでいっぱいになっていた。
しかし、変化はくるものだ。高校二年の終わり頃、俺が風邪をひいて暫く学校を休んでいた間に、どうやら合コンが開かれたらしい。回復して学校に復帰した俺を待っていたのは、玉川の「彼女ができた」という報告だった。
いつも俺たちは一緒で、俺たちはお互いに一番の存在なのだと勝手に思っていた俺は、自分でも驚くほどショックを受けていた。玉川にとって俺は一番ではないのだという事実が俺を落ち込ませ、それから俺は玉川と距離をおくようになっていった。それでも、クラス替えのない学校だ。嫌でも玉川と会うことになる。
あいつは素気ない俺にめげることなく何度となく俺に話しかけたが、俺は素直にあいつの話に耳を傾けることはなかった。

そのままの状態で卒業を迎えた俺たちは、別々の大学に進学したこともあり、すっかり疎遠になってしまって。あれから十年が経ち、日常の忙しさから玉川のことを忘れていたはずだったのに。転職をし、あの頃と同じ道を歩くようになった俺は、仕事の行き帰りに玉川のことを思い出して懐かしむことが日課になった。
あの頃着ていた制服と同じ服を着た高校生が通るたびに、玉川が隣を歩いているような錯覚に陥って。その度に、あの頃とは違いスーツを着ている自分に落胆するのだ。あの頃のようには、もう戻れない。俺は高校生じゃないし、玉川が隣を歩くことは無い。そう自分に言い聞かせてみても、あいつのことを考えてしまう自分を止めることは出来なかった。
「荒木っ!?」
あまりにも玉川のことを考えすぎていたのだろうか、あいつの声が聞こえた気がした。末期な自分に呆れて笑えてくる。空を見上げ自嘲した俺に、もう一度、玉川の声が呼び掛けてきた。それと同時に、体に小さな衝撃が走る。
「……たま、がわ?」
俺の体に走った衝撃は、どうやら勘違いではなかったらしい。俺と同じくらい図体のデカイ男が、俺に抱きついてきていた。
十年だ。その年月は、俺と同様にすべての物に変化を与える。少年は大人へと成長し、校舎は老朽化していくものだ。それでも、今自分にしがみついている男が玉川なのだという思いは、確信へと変わっていった。
「荒木、久しぶり!」
そう言って笑いかける玉川の笑顔は、あの頃と変わっていない。目尻には薄らと皺が見てとれるし、俺と変わらないくらいガタイの良い男になっていたけれど、それでも人懐っこい笑顔はあの頃のままだった。


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