少年時代@

仕事が終わり帰路に着く。その道すがら、俺はあいつのことを思い出していた。
高校時代、学校からの行き帰りに通っていた道。今の職場は、その道を通らなければならず、そうすると嫌でも高校時代のことが俺の思考を占領するのだ。


「ねえ、荒木っていつも一人で音楽聴いてるよな。何聴いてんの?」
高校に入学したばかりの頃、俺は友達も作らずに休み時間はいつも音楽を聴いて過ごしていた。ガタイが良く人相も強面だった俺が怖いのか、誰も俺と仲良くしようとしなかったのだ。
そんな中、ある日そいつは犬みたいに人懐っこい笑顔で俺に話掛けてきた。
「……玉川、だっけ?何、いきなり……」
一匹狼を決め込んでいた俺に馴れ馴れしく話しかけてくる人間がいるとは思わなくて、心底びっくりした俺は、困ったように眉根を寄せた。きっとこの表情も、他の奴にしてみれば怒っているように見えるのだろうが、玉川はそんなことに気を取られることもなく俺に満面の笑みを披露してくれた。
「だからぁ、いつもどんな音楽聴いてんの?って聞いてんだよ」
そう言うと、玉川は俺の耳から片方イヤホンを奪って、自分の耳につけてしまって。友達と呼べるような相手が久しく居なかった俺は、対処の仕方も分からず、されるがままになっていた。
「……なにこれ……英語ばっか……」
自分からイヤホンを奪っておいて、こいつは文句まで言うつもりか?そう身構えた俺に、玉川はやはり人懐っこい笑顔のまま俺にこう言ったのだった。
「これ、どんな歌詞?俺に教えてよ。いつも聴いてるくらいだから、きっと良い歌なんだろ?」

それがきっかけとなり、俺と玉川は急速に仲良くなっていった。玉川と喋っている俺を見たクラスメートも、いつしか俺と話すようになっていて。気づけば俺を怖がる人間はいなくなっていた。
玉川は不思議な奴だ。あいつが居なかったら、クラス替えのないこの高校で、俺は卒業するまで一人だっただろう。それが、あいつのお陰で恵まれた友達関係を築けたのだから。
それでも、一番の友達は玉川だった。最初から俺の外見に惑わされず俺と仲良くしてくれた奴だったからという、何ともガキらしい考えでそう思ったのかもしれないけれど。
それでも間違いなく、俺の一番の友達は玉川で、いつしか俺たちは親友と呼べる関係になっていた。
「今日はどこに行くんだ?またカラオケか?」
たまたま通学路の被っていた俺たちが一緒に登下校し始めたのも必然だと思う。玉川と仲良くなってから、放課後は二人で遊んで帰るのが日課になっていた。
「んー…、なぁ荒木。今日はゲーセン行かない?」
そう言えば、今まで散々寄り道したけれどゲーセンには行ったことがなかったな。そんなことをチラッと考えながら了承すると、玉川は本当に嬉しそうに笑った。
「そんなにゲーセンに行きたかったのか?」
不思議に思い尋ねると、少しの沈黙の後に思いも掛けない言葉が返ってきた。
「……荒木と一緒にプリクラ撮りたくてさ。嫌、かな?」
プリクラ。今までまともに友達の居なかった俺にとっては未知の世界だった。それも野郎二人きり。それでも、玉川となら嫌悪など湧くことが無く、俺はこの日、生まれて初めてのプリクラを経験した。


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