海辺の街のお伽話C

「こんな物……ッ」
ペンダントを壁に投げ付けても、それは壊れる事なく床で輝いていて。直人は膝を抱えてうずくまった。

ピンポーン
チャイムが鳴ったと同時に、玄関の扉が開く。
「……直人」
ここまで駆けてきたのだろう、額に汗を浮かべた誠一が直人に声を掛ける。と、直人の身体が大きくビクリと跳ねた。
「直人、聞いてくれ……ずっと前から、俺……」
「言うな!聞きたくないっ!!」
誠一の言葉を遮るように叫ぶと、誠一が小さく息を飲むのが伝わってきた。
「……迷惑なのは分かってる。気持ち悪いって思うかもしれないけど……ガキん時から直人の事が好きなんだ……」
「……ッ……何で、きなり……」
ズズッと鼻を吸い込むと、直人は悲しそうな顔で笑って尋ねた。
「何で、いきなり……んな事言うんだよ……」
この愛の告白が本物だったなら、どれほど嬉しいだろう。
本当に誠一が自分を好きになってくれたのなら、自分はどれほどの幸せ者なのだろうか。
苦しくて悲しくて、奥歯を強く噛み締めて涙を堪えた。
「誠一の気持ちには、答えらんねぇ……」
「そっか……悪かったな、突然変な事言っちまって……」
傷付いた誠一の顔を見ていられなくて下を向いた拍子に、直人の涙が一粒、ペンダントに落ちた。
と、突然、ペンダントが白く光り、小さな文字が浮かび上がる。
「……何だ、これ……」
思わず、誠一と直人の声が重なる。
その文字は、こう告げていた。

――汝の想い、しかと見届けた。その者の想いは、我の力の及ばんところ。次の持ち主が現れるまで、我は暫く眠るとしよう……

最後まで読んだところで、文字は綺麗に消えてなくなり、光も収まった。
「力が……消えた?」
「……直人、これ何?」
「ごめん誠一、ちょっと待ってて!」
誠一を玄関に残した直人は、家の前の道路に立っていた。その間に何人かの男が直人の前を通ったが、一人も直人に声を掛ける者は居なかった。
「……魔力が、消えたんだ……」
実感した途端、悲しくなった。もう、誠一は自分の事など何とも想っていないのだ。
玄関を眺める。この扉の向こうに居る誠一は、さっきまでの誠一じゃない。そう思うと、玄関に戻る事がためらわれた。
どれくらい玄関を眺めていただろう。いつまで経っても戻ってこない直人にしびれを切らしたのか、誠一が出てきた。
「……帰るの?」
「あ……うん。じゃあな」
言葉少なにそう言うと、誠一は背を向けて歩きだした。
「……ッ……誠一……」
小さく名前を呼ぶと、一瞬だけ彼の足が止まる。
あのペンダントは言っていたではないか。その者の想いは、我の力の及ばんところ、と。
あれが本当だとしたら。誠一の気持ちが、本物だったとしたら……。
「俺……ずっと前から、誠一のこと……好きだ……」
「直人?」
「誠一は……俺の事、好き?」
背中に向かって問い掛けると、誠一は振り返り、そっと直人を抱き寄せた。



海辺の街のお伽話。
昔むかし、まだ魔法が信じられていた時代、一人のお姫様がおりました。
その姫は、皆から囁かれる愛の言葉に酔いしれておりました。
しかし、ある時に気付くのです。皆が愛しているのは、姫という身分なのだと。
その時、一人の家臣が姫に愛を囁きました。姫が密かに想いを寄せていた家臣でした。
姫は哀しみのうちに自害をし、彼女の形見のペンダントだけが、家臣の手元に届きました。
家臣は哀しみました。彼は本当に、姫を愛していたのです。
後を追うように自害をした家臣は、事切れる寸前に、ペンダントに力を封じました。
このペンダントが誰かの手に渡った時、その時こそは持ち主が幸せになるようにと。
偽者の愛に屈す事なく、本物の愛を見つける事が出来るようにと……。

それは、悲しいお伽話。結ばれる事の無かった二人の、愛の魔力。
それから後、ペンダントは様々な人間の手に渡りました。偽者の愛に溺れた者には、悲しい末路が。真実の愛を知った者には、幸せな未来が……。
次の持ち主には、どんな愛の結末が待ち受けているのか。それはまた、別のお話。


★あとがき★
突発的に書きたくなりました。メルヘンな話もファンタジー同様に大好きです。


2009/11/2




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