海辺の街のお伽話B


「もしもし」
気が立っていた直人は、相手も確認しないまま苛々した声色で電話を取った。
『もしもし、直人?あれ、何か機嫌悪い?』
「誠一?いや、ごめん。何も無いよ…気にしないで……」
電話の相手は、幼馴染みの鹿島誠一(かしま せいいち)だった。誠一と直人は幼稚園からの幼馴染みで、クラスこそ違うが今も同じ学校に通っている。
受験が近くなった最近はあまり話をする機会も無かったが、それでも二人の仲はとても良かった。
『あのさ、今から少し会えねえ?』
誠一からの誘いは、とても魅力的に思えた。誠一に今日の事を愚痴ってしまえば、少しは気分が晴れるかもしれないと思えたのだ。
「……悪い、今日は無理だわ。ちょっと体調悪くて……」
それでも断わる理性が直人には残っていた。
誠一と会ってしまえば、愚痴を聞いてもらえるどころか先程までの男共と同じように迫ってくるのが目に見えて分かる。だから、今日は誰とも会わない方が良いだろうと思えた。
『風邪か?ゆっくり休んで元気になれよ』
「ありがとう。んじゃ、切るな?」
『あぁ……いや、ちょっとだけ言いか?今日はお前に、言いたい事があって電話したんだ』
誠一の言葉に、直人の胸がドクンと重く響く。
「……今度会った時じゃ、駄目なのか……?」
『すぐ済むから、聞いてくれ……。あのさ、俺、ずっと前から……』
ブツン。
最後まで誠一の言葉を聞かずに、直人は電話を切った。最後まで聞く勇気など、持てるわけが無かった。
「……ずっと前から、俺の事が好きってか……?」
もう、笑う事しか出来ない。会っていなくても、電話ですら魔力が効いてしまうと言うのか。

ひとしきり笑った直人の頬に、一筋の涙が流れた。
ずっと前から、好きだったのだ。誠一にとっては単なる仲の良い幼馴染みだとしても、直人はもう、何年も誠一に片思いをしていた。
こんなペンダントの力で愛を囁かれたところで、直人の心には空しさしか残らなかった。



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