プレゼントC

「お待たせ」
ガラッと扉を開けて、会話を遮る。聞きたくなかったのだ、智久の返事を。
智久が俺ではなく、女の子を好きな事実など聞きたくはない。だから俺は、真実に蓋をした。

「昭彦どうした?やけに静かじゃん」
「……いや、何もないよ」
その日の帰りも、俺たちはいつも通り一緒に歩いた。智久の気持ちが他を向かっているのだとしても、今は俺が恋人なのだから。
けれど、やはり智久の事を考えてしまうと無言になってしまって、智久は怪訝そうにこちらを伺ってきて。俺は馬鹿みたいに明るく振る舞って、何とかその場を誤魔化した。


智久の事ばかりを考えていたからか、時間はあっという間に流れていく。12月も終わりが近付き、とうとう冬休みがやってきた。
「昭彦さ、クリスマスイブは予定ある?」
智久に尋ねられ、ドクンと心臓が跳ねる。
「暇だよ。智久は?」
何でもないように尋ね返すと、智久はにっこりと笑顔を浮かべた。笑顔を浮かべて、言ったのだ。
「俺も暇。せっかくのクリスマスだし、デートしないか?」と。
……クリスマスにデート。俺と、聖なる日を過ごしてくれるのか?嬉しい。凄く嬉しいけど、本当にいいのか?
部屋で一人になって考えた。智久は、俺に遠慮しているんじゃないんだろうか。本当は合コンに行きたいけど、俺と付き合ってしまっている負い目から、行けないでいるんじゃないだろうか……。
そもそも、どうして智久は俺と付き合っているのだろう。そこまで考えて気付いた。智久から「好きだ」と告げられた事は一度も無かったのだと……。
何度もキスをしてくれたし、可愛いと言われた。でも、それだけだ。
……あれは……付き合おうというあの言葉は、やっぱり冗談だったのだろう。それを俺が、思いがけず真にうけてしまったから。
真に受けて、頷いてしまったもんだから、智久も引くに引けなくなったのかもしれない。本当は理彩ちゃんとかいう女の子が好きなのに、俺が居るせいで彼女と付き合うことが出来ないでいるんだ。
あぁ、全部俺の誤解だったのか。勘違いもここまでくると笑え……ねぇよ……。畜生、好きだったのは俺だけだったのかよ……。
部屋の隅に蹲り、俺は膝を抱えて泣いた。
泣いて泣いて、決めたんだ。智久が俺を捨てられないのなら、俺から身をひいてやろうと。


暗い部屋に携帯の明かりが灯る。携帯の呼び出し音が、静かな部屋に響くように鳴っていた。
『もしもし』
智久の声が耳に染みる。大好きな智久の声が。
「あのさ、智久……」
声が震えてしまうのを何とか堪え、必死に喉から声を絞り出す。
「別れてくれないか?」
ずっと、ずっと好きだった。誰よりも、お前の事だけを想ってるから……。
「友達だった頃に、戻りたいんだ……」
大好きなお前が恋人になってから、初めて迎えるクリスマス。これが、俺からお前への一番のプレゼントだと思うんだ。
「今までありがとう」
付き合ってくれて、ありがとう。本当に楽しかったよ。
「……さよなら」
凄く大切で大好きだから、今日でお前を解放してあげる。
言いたい事だけを一気に捲し立てて、俺は智久の返事も聞かずに電話を切った。智久の声を聞いてしまったら、覚悟が揺らぎそうだったから。
やっぱり別れたくないと、みっともなく泣いて縋りそうな自分が恐かった……。



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