プレゼントA

恋人?今、こいつは恋人になりたいと言ったのだろうか?いや、きっと聞き間違いだろう。
あぁ、そうか。冗談だ。あやうく真面目に返事して嫌われるところだったじゃないか。気付いて良かった。
「からかうなよ」
自分の気持ちを押し殺して、笑って流した。流したはずだったのに。
「からかってない。冗談とかじゃなくてさ、本当に俺と付き合わねぇ?」
智久の表情は至極真面目で、俺は智久の腕に抱き締められた。
智久の恋人。ずっと前からなりたいと願っていて、なれるわけがないと諦めていた想い。それが、叶うというのだろうか。
トイレの個室なんていう色気も情緒もない場所で、俺は小さく頷いた。

その日の授業は上の空だった。嬉しくて幸せすぎて、もしかしたら都合の良い夢なんじゃないかなんて不安になってしまって。
智久の事ばかり考えていたからか、あっという間に時間が過ぎていった。
「昭彦、帰ろうぜ」
放課後は智久と二人で帰る。これは何年も前から続いている習慣みたいなもので、普通の事じゃないか。そう自分に言い聞かせるのに、智久と二人きりだと思うと鼓動が弾んで頬が熱くなる。
静まれ心臓、平常心だ平常心。そう自分に言い聞かせて普段通りに返事をしようと頑張ってみたけれど、緊張で喉がカラカラに張り付いてしまい、発した声は変に上ずってしまった。
「お前、緊張しすぎだろ」
「……うるせー」
茹蛸みたいに真っ赤な顔で睨む俺を見て、智久はゲラゲラと腹を抱えて笑う。
「笑うなっ」
「ごめんごめん、あんまり可愛い反応すっからさぁ」
可愛い、なんて言われて嬉しいわけがないのに。普段なら、そんな事言われたらぶん殴ってるのに……智久に言われたその言葉は、俺の心にじわじわと甘く浸蝕していった。

冬の夜は早い。学校を出ると、まだ五時だというのに薄暗くなっていた。いつものように帰り道を智久と並んで歩いていると、時折冷たい風が頬を撫でる。
「寒い?」
寒さにブルッと身震いをした俺を見た智久はそう呟くと、そっと俺の手を握ってきた。
「ちょっ、誰かに見られたら…ッ」
焦って振り払おうとした俺の手は、更に強く握り締められてしまって、ドクドクと脈打つ心臓の音が繋いだ手から伝わってしまうんじゃないかと心配になってしまうほど、些細な智久の行動に俺の心は揺り動かされた。

自宅までの道のりは、あっという間だった。普段なら他愛もない事を喋りながら歩くこの道を、今日はほとんど言葉も交わさずに歩いていて、でもその心地良い無言の時間は、無情にも早く流れさってしまう。
「何か、めちゃくちゃ早かったな……もっと一緒に居たかったのに」
智久の言葉に、胸が熱くなる。同じことを想っていてくれたのだろうかと、想いが繋がっている証拠のような気がして嬉しかった。



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