キミと居た夏@


高校受験を控えた中学最後の夏休み、春日部颯汰(かすかべ そうた)は塾の夏期講習に通う事になった。
親に半ば無理矢理申し込まれたそこには、しかし颯汰の人生を大きく変える出会いが待っていた。

まず第一印象は、綺麗な手、だった。
ホワイトボードに文字を生み出す先生の指は、自分の指と違いしなやかで真っ直ぐで、颯汰はすぐに先生の指の虜になった。
勉強をする為に通っている筈なのに、勉強なんてちっとも頭に入らない程、先生の指は颯汰の目には眩しくて。
今日も一日、見惚れているうちに授業が終わってしまった。結局今日も何しに塾に来たのか分からなかったな、等と考えながら帰り支度をしていると、ポンと肩を叩かれた。
「春日部、ちょっといいか?」
名前を呼ばれ顔を上げると、先程まで見惚れていた指の持ち主である担当の先生が、神妙な面持ちで立っている。
「え…、いいですけど、何ですか?」
思いも掛けない申し入れに戸惑いながら頷くと、先生に個室の自習室に連れて来られた。

「何か大事な話ですか?」
他の生徒が居る教室ではなく自習室に連れて来られた事で、何か余程の事でもしただろうかと不安になりながら尋ねると、先生は俺より更に不安気な表情を浮かべていた。
「なぁ、春日部。俺の授業はつまらないか?」
「なっ、何ですかいきなり!?」
驚いた、心底。つまらない筈が無い。貴方のおかげで毎日が楽しいのに。そう返事をしそうになった俺の言葉は、先生によって遮られてしまった。

「いつもぼんやりしてて、全く授業に身が入ってないだろう?俺の教え方が合わないようなら、他のクラスに変わるか?」
先生は至って真剣な面持ちで、俺は焦った。
このままでは本当にクラスを変更させられてしまう。そう考えていたら、勝手に唇が言葉を紡いでいた。
「違うんです!先生の指が綺麗で、指以外が目に入らないんです!」

……しまった。勢いに任せて、つい口走ってしまった。
やばい、と思いつつ恐る恐る先生を見ると、阿呆の子みたいに口をポカンと開けて固まっている。
「あの…先生…?」
いつまで経っても唖然としている先生に痺れを切らして声を掛けると、ハッとしたようにこちらに目を向けて、あろうことか先生の顔が一気に朱に染まっていったのだった。





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