求愛以上、告白未満C

夏休みのあの日、靖貴としたセックスとも呼べないような行為の後、真夜中に目を覚ました正和は靖貴が起きないように静かに衣服を身に纏うと、逃げるように自宅へと帰った。
あの日から、靖貴とは会っていない。メールや電話も何度かあったけれど、全て無視をしたまま夏休みが終わりを迎えようとしていた。

「どうしよう…明日から新学期か…」
新学期が始まれば、嫌でも靖貴と顔を合わせる事になる。何も無かったように、いつも通り靖貴と言葉を交わせる事など出来るのだろうか。
靖貴がどういう気持ちであんな事をしたのか、あれから考えていた。目を奪われるような綺麗な花火によって作り出されたムードに、単に飲まれただけなのだろうか。
もしそうだったとしたら、別に自分の事を好きだという気持ちがあるわけでは無かったのだとしたら…。
そんな事を考えていたら、靖貴と顔を合わせる事が、電話で奴の声を聞く事が、怖くて堪らなくなった。

だって、好きなのだ。靖貴が俺を親友としか思ってなかったとしても、俺はガキの時から、靖貴が救世主として俺の前に降り立ったあの日から、ずっと靖貴が好きなんだ。

答えの無い迷宮に迷いこんでいた正和は、部屋の扉が開いた事に気付かなかった。
「……まぁちゃん…」
背後から不意に掛けられた声に、正和は大袈裟な程に身を震わす。耳に届いてきたのは、あの日から片時も頭から離れる事の無かった彼の声で、ギュッと膝を抱えた正和は下を向いて身体を固く強張らせた。
「……何か、用?」
カラカラに渇いて引っ付きそうな喉から絞り出すように発した声は想像以上に震えていて、情けなくて抱えた膝に顔を埋めた。

「すまん、まぁちゃん!本当、反省しとる…っ」
情けなくしゃがみ込む正和に、土下座して必死に謝る靖貴の言葉が耳に届いて。その言葉を聞いた正和は、瞳が滲んでくるのを懸命に堪え靖貴を見やった。

……どうして謝る?何を謝ってる?
あぁ、そうか。あの時の事を謝って許して貰って、無かった事にしたいのか。無かった事にして、また以前のような親友の関係に戻りたいのか。

……そんなの、許さない。
許してなんかやらない。無かった事になんて、出来やしない。
靖貴を好きな気持ちは、もう消す事なんて出来ないのだから。
そう告げたいのを何とか堪えると、土下座する靖貴の顔を上げさせ首に腕を回すと、靖貴の唇にそっと触れるだけのキスをして微笑ってやった。

「何謝ってんだよ。俺も気持ち良かったし、またやろうぜ?」
何でもない事のように告げた俺を、コイツはどう感じただろう。
でも、そんな事は関係ない。どう思おうが、どうでもいい。
許してなんかやらない。無かった事になんて、してやらない。俺から離れるなんて、許さない。

身体を重ねる事で靖貴を繋ぎ止める事が出来るのならば、セフレに成り下がってでも俺はお前を離しはしない…。



2009/8/8




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