求愛以上、告白未満@

あたかも自ら抱き付くかのような姿勢で靖貴に縋りついていた正和は、落ち着こうと小さく深呼吸をした。
何故こんな事になってしまったのか、それは数時間前に溯る。

夏休みも半分が過ぎた昼下がり、いつものように休日を満喫していた正和に靖貴が言ったのだ。
「なぁなぁ、まぁちゃん。花火見に行かん?」
そういう訳で、今俺たちは電車に揺られているのだが。
しかしと言うべきか、やっぱりと言うべきか…。電車はぎゅうぎゅうと押し潰されそうな程の人で混雑していて、人混みに押される形で靖貴の身体にぴったりと抱き付いてしまったのだ。

「まぁちゃん大丈夫?苦しぃない?」
気遣うように尋ねた靖貴の声は、彼の肩に頭を預けてしまっている自分の耳元に囁きかけるようで、鼓膜から身体中に緊張に似た震えが走る。
「だ、いじょうぶ…」
何とか返事をしたものの、鼓膜をくすぐるような彼の声は非常に甘くて、ドクドクと音が聞こえてしまいそうなほど胸が激しく早鐘を打つ。
「顔真っ赤やん、ほんとに平気なん?」
更に追い討ちをかけるかのように尋ねる彼の声が耳朶をくすぐり、靖貴の声は正和の身を震わせた。

どうしてこんなに緊張するんだ。どうして、鼓動が早くなる…。
靖貴に囁かれるたび、背筋から甘い疼きが生まれてきて。もう自分の気持ちを誤魔化せそうにないな、と正和は半ば諦めの境地に立つと靖貴の身体に強く抱き付いた。

「狭くて疲れた…」
その言葉を隠れ蓑にし、抱き縋りながら想う。
この気持ちに気付いてくれれば良い…。
気付いて振り向いてくれたなら、どれだけ報われるだろう。

「しんどかったんやね、ごめん。もっと俺に凭れてええよ」
そう言うと腕を回して抱き寄せてくれる靖貴に、俺は一寸の隙も無い程ぴったりと身体を密着させた。

密着させた身体から、自分の鼓動の早鐘がお前に届けば良いのに。
靖貴が好きだと訴えるこの動悸に、気付いてくれ…。
言葉で伝える事が出来ない臆病な俺が出来る、これが最大の告白なのだから。



2009/8/3


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