友達以上、恋人未満

日曜の真っ昼間から自室のベッドに身を横たえている男は、深く溜息を吐いた。
男の名前は日野靖貴(ひの やすたか)。高校二年になる靖貴は、もう何度目になるか知れない溜息を吐くと、ゴロンと身体を横に向け目を閉じた。

十七歳の靖貴は、思春期特有の“ある事”で悩んでいるのだ。そのある事とは、ずばり恋愛問題。
もう十年近く前から想いを寄せている相手が居るのだが、いかんせん付き合いが長いせいで、今の関係を崩すことが出来ないでいた。

「起きろよ、タカ」
扉に背を向ける形で寝ていた靖貴の上にドスンと重いものが覆い被さってきて、思わず「ぐえ…」と呻き声が洩れる。ゆっくりと身体を仰向けにすると、溜息が出る原因である想い人が、自分の上に乗っかっている姿が目に飛び込んできた。

「まぁちゃん、重たいやんかぁ…」
まぁちゃんとは、靖貴の想い人・高橋正和(たかはし まさかず)の愛称だ。
「失礼な奴だな!タカより軽いっつうの」
唇を尖らせて文句を言う様子はどうにも可愛らしいもので、思わず抱き締めてしまいそうになるのをグッと堪えた靖貴は、正和の頭をぐりぐり撫でながら「冗談やけん怒らんでぇや」と微笑んだ。

「ほんで、急にどおしたん?今日約束とかしとったっけ?」
素直に疑問を口にすると、正和はますます子供染みた様子で不貞腐れて、靖貴は鼓動が早くなるのを気付かれまいと正和を自分の上から降ろすと身を起こした。
「約束してないと、遊びに来ちゃいけねぇのかよ?」
そう告げる正和は寂しそうに見えて、思わず溜息が漏れそうになる。

まぁちゃんは、いっつもそんな態度やけん困る。そんな風にされたら、自惚れてしまうやんか…。
そう、困るのだ。先程まで一人溜息を吐いていた理由もそれだ。
いつも正和が可愛らしく甘えてくるから、思わず抱き締めてしまいそうで。
可愛らしい唇にキスをしたら、どんな顔をするだろう。そんな事ばかりが頭を渦巻き、危うく親友の座すら失いそうになってしまうのだ。

そんな事を考え沈黙していた靖貴に、正和は不安気な表情で覗き込むとおずおずと口を開いた。
「……もしかして、本当に迷惑だったか?もしかして、デート…の予定がある、とか…」
そう尋ねた正和は今にも泣きそうなもので、慌てて靖貴は正和に笑顔を向けた。

「迷惑なわけないやん!まぁちゃんは、俺の一番大好きな人やけん。一番大切な親友なんやもん」
「サンキューな。俺もタカの事、大好きだぜ」
そう告げた正和が泣きそうな笑顔を浮かべていたのを、慌てふためいていた靖貴は気付けなかった。

一番大好き。
親友。

その言葉が二人を縛る。
まるで自分自身に言い聞かせているようなその言葉の本質は、いつになればお互いの心に届くのだろうか…。


★あとがき★
「友情以上、初恋未満」の二人の別バージョン。
お互いが片思いし合っている状態です。
二人のフルネームを付けてみました。東京の方なんて、前回は「俺」だけでしたもんね。
続きを書くにあたって、名無しは不便だったので必死に考えました。
小説タイトルにしろ登場人物名にしろ、名付けはかなり苦手です。


2009/8/2




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